Short Story3
□寂しがらないでね
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(別に寂しいって訳じゃないけれど)
久しぶりにイノセンスが関係している任務。無事に回収も終わり、教団本部へ帰還する途中。汽車の中にて。
「はあ、お腹空いたなあ…」
「我慢我慢。もう少ししたら駅に着くから、そこで何か買いましょ?」
「はい…」
「ホラ、元気だして」
合い向かいに座る少女と、他愛もない会話をする。戦闘が終わった後に訪れる穏やかな時間。無事お互いに生き残れたことに感謝しながら交わす言葉。それらが何気なく、好きだったりする。
困ったように笑いながら励ます少女を、少年は純粋に綺麗だなと思った。そしてふと、その兄を思い出して身震いをする。こんなことを思ってしまった自分がもし本人に知られれば、血祭りに上げられるのは目に見えている。
軽く青ざめたアレンを不思議に思ったのか、どうしたの?と顔を覗き込んでくる。いえ、何でも…と両手を振りながら答えれば、そう?と納得がいかなそうではあったがあっさりと引き下がってくれたリナリーに感謝だ。
…と。
「!」
「…あら?」
実に何ともいえないタイミングで鳴る通信機の音。噂をすればというやつである。恐らくは室長殿からの───
「どうしたの?兄さん」
…ビンゴ。
まるで狙ったかのようなタイミングに脱力する。実は見られてたんじゃないだろうか、なんて実際ありそうで怖いことを考えてみたり。
「大丈夫よ、大した怪我も無いし。もう、心配性なんだから…え?うん、無事に回収出来たから、今汽車の中。もうすぐ帰れるわ」
きっと泣きながらリナリーリナリーと言っているんだろう。容易に想像が出来て、思わず苦笑い。ああ、相変わらずだなあと。
…そういえば。
室長であるコムイとその妹リナリーは、あまり似ていないように思う。黒髪や瞳の色は同じであるが、性格はまるで違う。リナリーはしっかり者で、トラブルメーカーな兄を引き止める役割。
(…遺伝子の不思議だ…)
そんな兄に振り回されることも多々あるものの、羨ましく思うくらいにとても仲が良い兄妹だ。
「うん、それじゃあまた」
"兄妹"
一人っ子である自分には関係のない言葉で。
「──兄妹が居るって…どんな感じなんだろう…」
「…え?」
「えっ、あ、すみませんいきなり変なこと言って!忘れて下さい…!」
キョトンとしたリナリーの顔にハッとする。ぽつりと浮かんだ疑問が、思わず口から出てしまったようだ。あははははとごまかすように笑いながら頬を掻くと、リナリーはクスリと笑った。
「う、やっぱり変なこと言いましたよね…」
「ううん。別に変なことじゃないよ」
「そ、そうですか」
「うん。そうね…大変、かな」
「え?」
「"兄妹が居る"ってこと」
「えええっ!?」
それは中々に爆弾発言じゃないですか!ていうかそんなことを聞いたらコムイさん卒倒しますよ!まああんなハチャメチャな人だから大変なのは当たり前なんだけど…!
若干失礼なことを言ってしまったがツッコミを入れざるを得なかった。一気にまくし立てると、またリナリーは微笑む。
「ううん、そういう意味じゃないの。嬉しいことも、悲しいことも、二倍になるから…」
「……あ」
「確かに…兄さんはたまに暴走するけどね」
「…すみません」
「でもね。普段はあんな感じだけど、兄さんホントは優しいのよ」
「それ、は知ってます!」
「…あら、ホント?」
「リ、リナリー!」
「ふふ、ごめんね。ちょっと意地悪しちゃった」
「…もう、焦りましたよ…」
ごめんねともう一度謝って、リナリーはころころと笑う。それは温かく、ホッとするみんなが大好きな笑顔だ(あくまで僕も含めたみんなが、です。あしからず)。
室長が、コムイ・リーという人物が、妹思いの優しい人のだということは知っている。今だってそう、妹のことを思って連絡を入れてきたのだから(決してやり過ぎは良くないけれど)。
優しい兄に大切に思われているリナリーは、幸せ者なんだと思う。
「──羨ましいです」
「え?」
「優しいお兄さんが居て、」
‥アレ?
おかしいな。
上手く笑えてる気が、しない。
その証拠にホラ、驚いた表情を浮かべてるリナリーが目の前に居る。
「‥羨ましい、です」
呟いた声は自分でも分かるくらいか細く弱々しい。何故だか鼻の奥がツンとして、思わず顔を伏せる。
ふわり。
頭に乗せられた手。
「ねえ、アレンくん」
「…」
「一人じゃないよ」
顔を上げると、其処にはあったかい笑顔。
「私達は、確かに血は繋がっていないけど…」
「…、」
「教団(ホーム)のみんなも…もちろん私だって、家族だって思って良いの」
「リナリ、」
「‥ね?」
(寂しいことなんて、何もないんだよ)
あ、リナリーも笑ってる。
今度はちゃんと、笑えたみたいだ。
fin
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リー兄妹+アレンというより、リナリー+アレンですね。
寂しくなっちゃったアレンに、お姉さんなリナリーが書きたかった。