Short Story3

□ほっとけーき。
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(ほのぼの)



そろそろ小腹が空く時間。
リビングにある掛け時計の針が12と3を指しているのをみて、橙色した髪の毛の少年は胸を高鳴らした。

コンコン、カチャカチャ。
台所のほうから、何かを叩いたり、混ぜ合わせたりする音。気になって台所にヒョコと顔を出すと、それに気付いたのか母と目が合った。もうちょっと待っててね、直ぐに出来ちゃうから。待ちきれずに台所に向かった自分が恥ずかしくて顔を赤らめると、あったかな手が頭を滑った。


大好きな母の背中を見上げる。
材料は小麦粉と砂糖と…
あとはなんだろう?


まだ少年の背が小さい為、手元が見えない。故に、詳しいことは何一つ分からなかった。ただ一つ分かるのは、あっという間にそれを作り出す母の顔は、いつも楽しそうだということだけだった。


ジューッ。
これは熱したフライパンに生地を流し込んだ音。美味しそうな音と直ぐに香る香ばしい匂いに反応して、お腹がグウと鳴いた。そんな息子に母はクスクスと笑い、言う。


「…もうすぐ出来るから、お皿の用意お願いして良い?」

「うん!4人分?」

「そう、4人分。父ちゃんには内緒」


楽しそうに笑う母に、とても幸せな気分になった。父には悪いが、こうしてたまに内緒で食べるおやつの時間が好きだったりする。


「じゃあついでに、遊子と夏梨呼んでくるよ」

「ふふ、お願いね」

大好きな母の笑顔を背に、二階で遊んでいるであろう妹達を呼ぶ為勢いよく階段を駆け上がった。


ほっとけーき。
(甘い匂いに誘われて)


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真咲さんがまだご健在していた頃の黒崎家。幸せの真っ只中。

子供にとって『母ちゃんが作るおやつ』って、なんだか特別な気がしませんか?一緒に食べながら会話をすることで、子供の心の成長にも繋がりそうな気がする。

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