Short Story3

□私はあの子、あの子はあいつ
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放課後。
たつきの部活が終わるのを一緒に待っている時のこと。隣には愛しの織姫が居て、気分は最高潮で。そんな時、複雑な顔付きでやけに言いにくそうにしながら、口を開いたのは織姫だった。


「‥あの、ね。千鶴ちゃん、報告があるんだ」

「んーなあに?ヒメ!」

「…あたし、黒崎くんと───」


そのあとのことは、正直よく覚えて居ない。ふと気付いたら、アタシはその場に立ち尽くしていて。織姫はもう居なかった。



(……あのね、千鶴ちゃん。あたしね、)



「千鶴、アンタ何そんなとこでつっ立ってんのよ」

「‥たつき」

「何、辛気臭い顔して…織姫なら先帰ったよ」

「…そ」


"織姫"
それを聞いて頭を過ったのは、彼女が紡いだ言葉の続きだった。



(黒崎くんとね、お付き合いすることになったの)



織姫が帰ったのに、なんでアンタ此処に居るの。あたし織姫にちゃんと挨拶出来てた?とか、色々聞きたいことはあったけど、上手く言葉として出なかった。けれど、たつきはそれを代弁するかのように『織姫はアタシが帰した』とことも無げにサラッと言ってのけたのだった。


そして織姫が帰り際、謝っていたということも。


「…もー。なんで謝るのよ、ヒメってば」

「……千鶴」

「そりゃまああたしは、ヒメのそんな優しいところとか大好きだけどさ」

「…千鶴、」

「別にホラ、悪いことしたって訳じゃないじゃない?だから謝らなくたってさ、」

「千鶴!」


思い切り肩を捕まれて、強制的に振り向かされた。真っ直ぐなたつきの目線が、痛いぐらいに突き刺さる。ユラユラと歪んでぼやける視界に気付いて、顔を反らした。


「別、に、あたしは気にしてなんか」

「じゃあちゃんと目を見て話せよ…!」

「……っ」

「…アンタが本気だったんだって、アタシは知ってるよ」



その言葉にハッとして顔を上げる。そこには力強い言葉とは裏腹に、とても哀しそうな顔をしたたつきが居た。



「知ってるよ」



尚も突き刺さるたつきの視線。
その辛そうな声にいたたまれなくなって、我慢していた涙が零れた。

一度零れてしまえば、それは留まることを知らない。


「‥あたし、さ。気付いちゃったの。私アイツのことが好きな織姫が好きだったんだ・って」


たつきが辛そうに目を細める。
鼻がツンとして、唇をグッと噛み締めた。

いつもいつも笑っていた織姫。そんなあの子にずっとずっと惹かれていた。でも自分が大好きなとても幸せそうな笑みを浮かべる一番の理由は、アイツ──黒崎一護のことでだった。でもそんな織姫の笑顔が大好きだったのだ。好きだと思うのと同時に、いつも胸が苦しくて辛かった。



「ずっと…ずっと好きだったんだから!ヒメが私に笑ってくれた日から、ずっと…」



例え性別が同じであろうと、本気で大好きだった。ずっと一緒に居れたらと、何度考えただろう。でも何処かで適わないと思っていた。あんな笑顔にすることが、自分では不可能だったから。



(私はこんなだから、周りから異質なものを見るように見られてきてたのね。でもこんな私に笑いかけてくれたから。そのままの千鶴ちゃんが好きだよ・って、笑いかけてくれたから。それで吹っ切れたんだ、私。自分に正直に生きようって。私は他の誰でもない。私自身なんだからって)


ヒメが幸せならあたしも幸せ。
ずっとそう思ってきたのに。



「…でも…笑えないよ。ヒメがあんなに幸せそうなのに、ヒメがあんなに楽しそうなのに、私……笑えないよ…っ」


最低だ。あんなに幸せそうな織姫と一緒に喜べないなんて。おめでとうって笑って言えないだなんて。すがりつくように服を握り締めた千鶴のその手に、たつきはそっと自分の手を重ねる。



「アタシは織姫の代わりにはなれないよ。…でもアタシはアンタのこと、ダチだと思ってるから」



だから今は泣いても良いよ、と言われている気がした。





(でもそんな君が好きだったんだ)


(…優しいのね、たつきって)
(何よ、どんだけ人を鬼みたいに思ってたの)
(普段からそういう態度取りなさいよ)
(アンタは甘やかすと付け上がんでしょーがっ!今だけよ今だけ!)
(…けち)


‥うそ。
ありがとね。
今はまだ無理だけど、たくさん泣いたら次はちゃんと織姫の顔を見て、笑っておめでとうって言うから。

だからもうちょっとだけ、隣に居て。



fin

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