Short Story3

□パステルピンクにキス
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「二番隊長さァん」

「‥市丸」


ひらひら。
手を振りながら二番隊の執務室に入ってきた銀髪の男は、何のようだと呟く砕蜂に訳も話さず部下である大柄な男にこう言った。


「ちょっとだけ、二番隊長さん借りて良え?」

「え。何で本人じゃなくて俺に…」

「借 り て 良 え ?」


勝手なことを抜かすな!と砕蜂。
三番隊の腹黒隊長様からはとてつもない威圧感(いつもよりにこやかだと言うのにムチャクチャ怖い)。何だよ俺何かしたかよ、板挟みとか勘弁しろよと大前田の心の嘆き。どっちに逆らってもあとが怖いので冷や汗をダラダラと流しながら二人を交互に見る。…ダメだ決められねぇ!

「あー」だの「うー」だの言いながら悩んでいると、市丸は喉を鳴らして笑った。


「…良え部下を持ったなァ、二番隊長さん。書類は自分がやっとくから借りても良えって」

「え」

「…市丸、貴様どういうつも……っ!」


ひょい、と砕蜂を抱き上げると(所謂お姫様抱っこである)、夜までには返すからとたわけたことを抜かし、三番隊隊長は去っていった。


(…何だアレ。つか今日は書類山ほどあるんですけど。どうしろってんだよこの山ー!!)


一人残された大前田の嘆きに返答する者はなく、ただ執務室の中で虚しく響き渡るだけだった。



* * * * *


連れて来られたのは市丸の自室だった(前に一度だけ来たことがあった)。相も変わらず殆どものがなく、殺風景とも言えるこの部屋。いきなりこんなところに連れてくるな…!と畳の上に降ろされた砕蜂は市丸を睨み付ける。しかし当の本人はそれすら気にしていないようで、平然とお茶飲む?などと聞いてくるので呆れた。

結局はお茶が入った湯飲みを手渡され、市丸が隣に座ってくるまでは黙っているのだった(諦めていた、ともいう)



「…それで」

「ん?」

「貴様が私を此処に連れて来た理由を聞いているのだ」

「…知りたい?」

「当たり前だ。いきなり理由も言われずに連れて来られたのだからな。説明して貰…」



次の瞬間。
市丸の瞳が妖しさを帯びたと同時に首筋に口付けを落とされた。突然のことに顔を真っ赤にして言葉が出ない砕蜂に、市丸はクスリと笑う。


「…林檎みたいやね」

「いきなり、何を…」

「なァ、二番隊長さん。今日は何の日だか覚えとる?」



(今日は2月11日。
二番隊長さんの生まれた日やね)


そのまま市丸に手を引かれて、ギュッと抱き締められた。まるで身体全部が心臓になってしまったかのように、鼓動が近くで聞こえる。これ以上このままでいたらおかしくなってしまいそうで、胸板を押すがぴくりともせず。


「あらら。えらいドキドキいってるなァ」

「…うるさい」

「昨日は仕事多くて0時ピッタリにお祝い出来ひんかったから、今傍に居たかったんや」

「覚えていたのか」

「当たり前や」


誕生日おめでとう。
耳元で囁かれて、額に、瞼に、頬に、そして唇に、口付けが降ってきた。相変わらず心臓は激しく鼓動を刻んでいるのに、それをどこか心地よいと思ってしまう自分が居て。



(…うつけ者だな、私は…)







(せっかくの誕生日やから、プレゼントあげるわ)
(…あ、ああ…)
(ほな、二番隊長さんにあげるんはボク自身。そのままじっとしててええよ?可愛がってあげる)
(ばっ、馬鹿者よせ!尽敵螫殺…)
(…あらら。つれへんなァ)




(title/貴方の唇に届かない)


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砕蜂、誕生日おめでとう!
ちょっと色気を加えてみたけどやっぱり私には無理でした←

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