Short story2

□これだけは、負けない
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時刻は朝8時過ぎ。
自転車を物凄い勢いで走らせるのは、サボりの常習犯。



聞こえるのは無機質な独特の金属音と、全力疾走少年の呼吸音と風の音だけ。



後ろに乗っている留学生はいつもの様子が嘘のように少年にしがみつき黙ったまま。




──どうしてこんな事になったんだっけ。





寝坊して遅刻ギリギリに家を飛び出して自転車で走行中、前方に欝陶しい桃色。




どうやら同じく遅刻しそうになっているらしいが、こちらに声を掛ける余裕はないし義理もない(それに自分の性格上、奴の困り果てた表情が見たかったりした)ので、無視して通り過ぎた。…ハズ、だった。




通り過ぎた瞬間、不自然に宙に浮いた感覚。
必死に漕いでいたハズのタイヤは何故か空回り。




『オイ、待つヨロシ』


『テメッ、何の恨みがあるんでィ…遅刻するじゃねーか』


『お前に対する恨みなら無駄にたくさんあるネ。この前も私のタコ様盗み食いしやがってェェェ!』


『ちょ、マジでシャレになんねーからいったん離せ。自転車浮いてる』




この馬鹿力め。黙ってりゃ普通に通用する外見なのに。…性格は可愛いげのカケラもないけど。




やっとの事で自転車を地面に降ろすと、沖田は怠そうに溜め息をつく。






『遅刻しそうな"か弱い乙女"を置いてくヤツなんて聞いた事ないネ。乗せてくヨロシ』



『か弱い乙女?そんなのどこにいるんでィ』



『テメッ、目の前にいるだろ!よく見ろヨ!』



『あだッ…何すんでィ!』




…普通か弱い乙女は暴力なんて振るわないんじゃないだろうか。マウンテンゴリラなら目の前にいるがねィ、なんて心の底で毒づく。




『いいから乗せてけヨ』


『それが人にものを頼む態度かィ。乗せて欲しけりゃ土下座しなァ』



『ふざけるのも大概にしろやコルァ』




遅刻しないのが目的ということをスッカリ忘れて、もう自転車に乗るということ自体が目的になってしまっている。




ついにはメンチを切り合い、火花を散らす始末。



もう遅刻なんてどうでもいい。
目をそらすことは互いのプライドが許さないのだ。





(……チッ)





本来なら遅刻しそうな時に頼ってくれたのが自分なんだということは嬉しい事なのだが―――





『オイ、通行の邪魔だからそこどけ〜』




どこか怠そうな声が辺りに響く。

あ、この声聞いた事ある。しかも毎日のように。


なんてボンヤリ思っていると。
次の瞬間、原チャリの音とともに、その横を銀色の何かが通り過ぎた。





『あっ、銀ちゃんネ』





神楽が「銀ちゃん」と言った瞬間、突如自分の中に渦巻いた黒。




心の底から沸き上がる感情に、少しだけ戸惑ってしまう。




なんだよ、コレ。




土方以外には滅多に感じた事のない感情だったからだ。




『よォ。オメーら、遅刻したら廊下に立たせっからな』


『先生、廊下に立たせる立場の人が遅刻ってないと思います。ってか死んで下さい』


『何それ。総一郎くん酷くね?…アレだよホラ。先生だって寝坊したくなる時もあんだよ』


『先生!私も乗せてって下さいー!』




その言葉に、また黒い感情が増えたのを感じた。



―――ふざけんな。今までこっちに頼んでた癖に。



…気に食わねェ



楽しそうに奴と会話している様子を見ているだけで、苛々は治まるどころか酷くなるばかりで。



…気に食わねェ。あー胸糞悪い。


そんな事を思ってしまう自分自身も、銀八の野郎も。
そしてそいつに向かって笑ってるチャイナも。




苛々の理由は取り敢えずどうでもいい。
だが、銀と桃が関わる事が気に食わないと思っているのは確かだ。




───あの銀色に、負けたくない。





無意識なのかそうじゃないのかは定かではないが、確かにそう思った。




自分なんて奴には敵わないのかもしれない。
…でも、それでも。





『乗れ』


『え…うわッ!』





まるで負けず嫌いの子供のよう。くだらないことかもしれないが、意地でも負けたくない。




ヒョイと抱き上げて(あれ?思った以上に軽い)、半ば強引に自転車の後ろに座らせる。




その様子を見た担任の目が、すべてを見透かしたように細められたのが解った(ああ、腹が立つ)




後ろでチャイナがギャーギャー騒いでいたが、そんなことはもはやどうでも良い。「うるせーや」とハンドルを握る手に力を込める。




『じゃ、急ぐんで。せいぜい遅刻しないように気をつけて下せェ』



『…ああ。お前もな』






余裕のある感じがムカついて、思いきり睨みつけてやった。
あとで奴が食べる糖分にタバスコを投入してやる。





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