Short story2

□仕えるのは、
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「…お嬢様」







優しい声が、する。




私の大好きな声が。






窓から差し込む柔らかな陽射しと共にふわふわと私の意識をこちらへ誘うのは、大好きな人。




朝の匂い。香ばしいベーコンや煎れたて珈琲の薫りよりも、





「お嬢様、そろそろ朝食が出来上がりますよ」






優しく響く貴方の声がもう少しだけ聴きたくて、ほんの少し意地悪してみた。





(寝たフリするぐらいバチは当たらないもの)





くるくると変わる声色。銀色の髪、翡翠の瞳。どれもこれも愛しくて。






「…桃お嬢様」







名前を呼び出したという事は、そろそろ起きないと本気で怒り出す合図。そういう時は必ず、嫌に声が優しくなる。本当に解りやすいものだ。





仕方ない、と雛森は心の底で考えを改めた。
だって朝一番から怒鳴られてはせっかくのいい気分が台なしだ(それは自分自身のせいなのだが、あえてツッコミは入れない)。出来れば彼の声はもう少し聴いていたいが、怒鳴り声は優しい声には敵わない。





もぞ、と寝返りを打ってから目を開けようとしたその時。







「そろそろ起きないと、襲っちゃいますよ」



「…なッ、!?」





ボソリと呟かれた言葉に、身体中の熱が顔に集中する。効果音を付けるなら正に「ボッ」だろう。ふわふわした意識を戻してすぐさま頭をフル回転。勢い良く跳び起きた。





「おはよーございます、お嬢様」





バッと見上げれば、翡翠の瞳は楽しそうに揺れて口角を吊り上げる。
してやったりなその笑みに、余計に赤面したのは言うまでもない。






「起きちゃったんですか?残念だな、」

「なッ…どういう意味よ!?」

「…もしかして期待しちゃったんじゃないかと思って。顔、真っ赤ですよ?」

「…!!バカ!寝たフリしてたの知ってたでしょー!?」

「さァ、どうだか?」





…それに、寝たフリしてたほうのが酷いんじゃないですか?と続ける彼にはとても敵わなくて布団に潜る。




どこか遠くから聞こえた「じゃ、早く着替えちゃって下さいね」という声と扉を閉めるを頭の片隅で聴きながら、頬に残る熱をどうにかして冷ませないものかとジタバタする少女が寝室に取り残されていたという。





仕えるのは、

(私の愛しい人)
(こんな朝も悪くないと思ってしまったのは絶対に秘密!)







Fin





──────────

一度やってみたかった執事×お嬢様パロ。
ちなみに管理人的には日番谷くんと雛森は両想いの設定だけど…読者の判断に任せます!(え)



やっぱりちょっぴりSっ気がある執事さんって素敵ですね 笑
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