Short story2
□後輩くんのひそかな企み
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今日こそは言ってやる。あの鈍感な先輩に、必ずこの胸に秘めた気持ちを表すだけの愛の言葉を、
「お、神楽みーっけ」
「先輩を付けろ先輩を」
「神楽、せんぱい」
「よろしい」
(珍しく真面目に出た)剣道部の帰り、見掛けたのは見知った桃色。どこか異国を思わせるその出で立ちに、少年はひそかに「チャイナ」と呼んでいた。
所謂、一目惚れであった。初めて会ったのは部活が怠くて廊下でサボっていた時。生意気そうな表情で「サボんなよ」と話し掛けて来たのがきっかけで。
(その時に見せた笑顔が、そんな柄じゃないけど天使みたいだと思った)
最初はその外見に一目惚れ。段々と中身を知っていくうち、いろんな意味でとんでもない衝撃を受けたのを覚えてる(だって外見と中身がまるで一致しちゃいないんだ)。まずは異国な風貌がそのまま彼女の出身地答えになっていた事(どうやら中国からの留学生らしい。嘘臭い語尾もその証拠)。
そしてもう一つはその性格だ。
外見通り可愛らしい性格なのかと思えば、強気で活発で。サバサバしてて男より男勝り。それに毒舌ときた。
なんというか、先輩の癖に後輩の俺より子供っぽかったり。今まで外見だけで周りに引っ付いて来た女どもとは一味も二味も違うのだ。
それでいて実は弱かったりするから、ほっとけなかったりする。
「神楽先輩何飲んでんの?」
「カルピス。私これ好きネ」
「ふーん…俺にも一口ちょうだい」
「ふざッけんじゃねーヨ誰がお前に恵むか。自分で買うヨロシ」
「無理無理無理。俺喉渇いて死にそう せんぱい助けてー」
「棒読みかよ。せめて感情を込めろや」
「あ、バレた?」
フン、クソガキがと美味そうな音をたてて目の前でジュースの缶を一気飲みする大人げない先輩に本気でため息をついた。オイオイ本気で拒否んなくてもいいじゃん、俺ガラスの剣なんですけど。
まさにこう言えばああ言う、だ。
予想通り「んなの知ったこっちゃないネ」と軽く遇われて肩を落とした。…だけど、それでもやっぱり諦めきれないから最後の手段。
「じゃあ今日帰り一緒に帰ろうぜィ」
「いきなりアルか。話の流れが解んねェヨ。これだから今時の若者は…」
テメェ俺とそんなに歳違わないだろーが、と心に浮かんだ事は敢えて口に出さずに耐えた。…俺偉い。グチグチ言われるのは慣れてはいても耐えかねないので、ここでこの先輩を確実にオトせるこの決め台詞。
「帰りに肉まん買ってやる」
「マジでか後輩」
「マジでさァ」
「よし、その話乗った!自転車漕ぐヨロシ」
「…了解、」
余計な単語はくっついてきたが、まぁ結果オーライ。良しとしよう。さりげなく自転車二人乗りが出来る事には柄じゃない(信じてもいない)が神に感謝だ。
(安いモンだぜィ)
先輩と帰るのは結構安かったりするのはここだけの秘密。
後輩君のひそかな企み
(たくさん買ってやるから毎日一緒に帰らせて)
(調子に乗るな後輩。下心がまる見えネ)
(…チッ、バレたか)
Fin
生意気な後輩ってところがキーポイント
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