Short story2
□雨恋ランデヴー
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「何やってんだよ」
雨。雨。雨。
止む気配はなく降り続ける雫の中を少女が一人。
今まで頭や肩を叩いていた雨が急に降り止み、上を見上げる。――と、そこにはあるハズのどんよりとした灰色ではなく。
「…紺色と、銀色」
「お前な…」
こんな土砂降りの中、傘も差さずに立ちすくんでいた彼女を少なからず心配していた彼は、少女のへにゃりとした笑みに呆れた顔をしてハァ…とため息。そして心のどこかで安堵していた。
天候は土砂降り。
普通ならば傘を差すだろうし、傘が無いなら雨宿りもするだろう。それをしないという事は不信感を煽る。…つまりは、何かあったのかと。
「で、お前は傘も差さずに何してんだよ」
「んー…」
安堵した事は顔に出さず。濡れないように差し出した傘を持ち直しつつ少女の眼を見つめた。考えている、と言う事は答える気はあるのだろうか。どうやら心配する事ではなさそうだ。
(コイツは何かあると俺に隠そうとするからな…)
そう確信するのは幼なじみという長年の付き合い故か、それともそういう事が日常茶飯事で起こるのか(恐らくはそのどちら
も正解なのだろう)。
「あのね、家に居たら急に日番谷くんに…あ、会いたくなっちゃって、」
「…」
「会いに行こうと思って走ってさっき外に出たら傘を忘れて来ちゃってね、」
「それで?」
「でももしかしたら日番谷くんが来てくれるかもしれないって思って…念じながら待ってたの」
「…は、?」
「そしたら本当にすぐ私を見つけて来てくれたからビックリ!…ありがとう、日番谷くん」
全身から力が抜けるとは正にこの事だろうか。そう言ってまた微笑んだ雛森に、本当に脱力。
つまり奴は自分に会いたかった、と。それでこんな土砂降りの中傘も差さずに居たのか。コイツの天然さもここまでくると笑えてくる。
「はぁ…お前なぁ、」
んなに会いたきゃ電話すりゃあ良かったろ?と続けると、心底驚いた顔をし「そっか…そうだよね…!日番谷くん頭いい!」の天然ボケ炸裂のお言葉。
(つーか学校でも毎日会ってるじゃねぇか…)
なんて思いつつ、会いたいと言われるのは悪い気はしないもの。彼女にとって、自分は大きな存在なんだ、と頬が緩むのを抑えるのには苦労した。
だがしかし、それで風邪を引かれてしまってはマヌケにも程があるので、
「ったく、風邪引くからとりあえず帰るぞ」
「うん!」
彼女の話は家でゆっくり聞く事にしよう。
雨恋ランデブー
(どんな時も見つけてくれる王子様)
Fin
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