Short story2

□さよならのラブソングを君に
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突然襲ったこの鈍い痛みは、一体何なのだろう。











「……」






隊首会の帰り道。
いつになくぼんやりとした足どりで、自隊の隊舎までを辿る。




普段の彼女を知っている者は誰もがその様子に驚き、振り返るだろう。






「砕蜂隊長…!お疲れ様です!」


「…ああ、」






近頃なんだかおかしい。物凄く変だ。今もまた、声を掛けた隊士が首を傾げながら過ぎ去って行くのが目に入る。






(一体どうしたというのだ、私は)







普段は勤勉で真面目な彼女だが、最近はなんだか仕事にも身が入らないし、どこか上の空。ボーッとしたかと思えば急にどこか思いつめたように顔を歪めたり、必要以上にピリピリした態度を見せたり(それは普段と変わらない気もするが)。





この前は隊首会終了後、猛スピードで執務室にきたかと思うとすぐに自室に帰ってしまったり(大前田談)。






…そう、何かがおかしい。それは自他共に認める事だった。








「砕蜂隊長…何かあったんですか?」




「…檜佐木、か」








"元気がない" と

書類を届けに来た青年は
自分を真っ直ぐに見つめて確かにそう言った。





少女はまた上の空だった。檜佐木と呼ばれた黒髪の青年にそう質問されるまで、彼が居た事に気付かなかったのだから。





檜佐木は気をきかせ、もう一度「書類を届けに来ました」と頭を下げた。


それに砕蜂は軽く相槌をうつと、目を閉じる。








「それは、自分でも解らぬ」




「…」




「でも確かに、最近の私はどこかおかしいな」






そこで目を細め、男の目を見る。
青年は黙ったままだ。
ただ、その話を大切に、一言も聞き逃さぬように真剣に耳を傾ける。






「…この話は終わりだ。…忘れてくれ」






ふ、と息をつく。
青年の手から書類の束を受け取ると、砕蜂は自隊に帰るよう促し、目線を紙へ。







「隊長、」





上から響いた声に、ゆっくり顔を上げる。





―――そして、そこにあった表情に思わず目を見開いた。






「俺には、言えない事ですか?」






そこには青年の、なんとも悲痛な表情があった。





「檜佐木、」



「俺じゃ、駄目ですか」






(砕蜂隊長、隊長 答えて)
(俺は、俺 は 貴女の事が)
(でも隊長は、違う)







貴女が好いているのは俺じゃなくて、







「……最近、よく会う奴が居る」



「奴の姿を見ただけで激しい動悸を起こしたり気分が不安定になる…」






観念したように、ポツリポツリと話し出した言葉を、青年は噛み締めるように静かに聴いた。






(ああ、これでやっと、ちゃんと終われる)







「私は、何かの病か?」





自分を見上げるはその感情の名も知らぬ少女。
自分が彼女に抱いている気持ちなど、想像もつかないだろう。







「隊長、それは」






(貴女が好いているのは、俺じゃなくて―――)






「…恋、です」






あの張り付いた笑みを浮かべた、人







さよならのラブソングを君に、
(さよなら、愛しき人)










ずっと、好きでした。




Fin





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