Short story2

□天使のララバイ
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ホラ また聴こえるよ
心地の良い、子守歌が








さわさわと揺れる木々に風の音。それらが聞こえるぐらいに辺りは静寂に包まれていて。



愛しい愛しい膝の上で、そっと瞳を開けたのは、





「…ん」



「起きたか」





ゆっくりと瞼を開けて見えるのは、滅多に見せる事の無い深紅。そしてそれには、表情を柔らかくした少女の姿があった。





「二番隊長、さん」


「ん」


「おはよ、」


「寝ぼけてるのか?」







そう呆れたように笑って。だが声色は今まで聞いてきた中で1番優しいもの。



そしてそのままゆっくりと、硝子細工を扱うようにそっと。綺麗な銀の髪を梳く。青年はされるがまま、気持ち良さげに目を細めて笑った。




銀が陽の光を浴びて、キラキラと。羨ましいぐらいに綺麗で、見とれた。




羨ましい。女の私より綺麗な髪を持っているなんて。なんて思いながら梳く手はそのままに、もう一方の手で自分の髪に触れた時。





「ボクより蜂の髪のほうが綺麗や」


「…どうした。いきなり」


「あらら。声に出てたん気付かへんかった?」






つまりはそういう事。心の中で呟いたつもりが、ようするに声に出ていたのだ。驚かせるのは相変わらず上手くてここまできたら逆に感心する。


コイツは読心術でも会得しているのかもしれないと一瞬でも思った私が馬鹿のよう。悔しいがストレート負けだ。




ふわぁと口から出そうになる欠伸を噛み殺すと、手がゆっくりと移動する場所は艶やかな黒髪。手を伸ばした瞬間、ほんの一瞬だけ身体を強張らせたが、直ぐにそれにも慣れたようだ。





「眠いなら無理するな」


「起きてたい」


「馬鹿者貴様は子供か。任務疲れが溜まっている筈だろう?大人しく寝ろ」


「全然平気やて」





全く、と少女が溜め息をついたが気にしない。気付かないフリだ。彼女は自分を心配して怒っているから、その事実が嬉しかった。







(綺麗な髪)







きっとそこら辺の奴らなんかには負けない。夜の深い黒よりも死覇装よりも、ずっとずっと綺麗で深い色。決して指に絡まり留まる事のないサラサラの髪。



ゆっくり梳いて見惚れていると、それまでされるがままだった少女が口を開いた。






「市丸」


「何?」



「…近い。少し離れろ」


「気のせい気のせい」






実は気のせいじゃなかったりするのだが。さりげなく頭を撫でながら徐々に砕蜂の頭をこちらまで下げている。



それでもされるがままに頭を下げてくれているのが可愛くて。ほんの少しの意地悪。






「お、おい いちま……っ、」





ふに。
顔が限界まで近付いて、目をつぶってしまった彼女の頬を人差し指で突いてやった。





「残念。ちゅーはまた今度やね」


「……っ、」


「あら、もしかして期待してたん?」


「誰がするか!!」





これ以上ないぐらいに赤く色づいた顔を覗き込んで思わず吹き出した。



最初は何か言いたげだった砕蜂も、普段とは違いケラケラと笑っている彼には敵わないらしく、しまいには苦笑い。






「なァ、蜂。もう暫くこうしててもええ?」


「…ああ」





観念したようにまた髪をクシャリと混ぜ始めると、市丸はふわぁと軽く欠伸を1つ。ただ先程と違うのは、その欠伸を噛み殺さなかった事だけ。






「ね、子守歌 歌って欲しい」


「…本当にどうした今日は。やけに甘えるな?」



「甘えたい年頃なんや」


「初耳だな、それは」






苦笑しながらも優しく響く音色。それはどこか懐かしい旋律で、安堵して瞳を閉じる。





再び眠りに落ちる直前。耳元で彼女の温かくて甘い囁きが、聞こえた気がした。





(誕生日おめでとう、市丸)





天使のララバイ
(今日ぐらいは許してやる)








Fin







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