Short story2
□貴方が、大好きだよ
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次のバス停を降りたら、貴方は居なくなってしまうね。
ゆっくりと進む町並み。本当はずっとこうして居られたらよかったのに。
『ねえ、』
『ん?』
『向こうに行っても元気でね』
『ああ』
『ちゃんとご飯食べるんだよ?』
『…お前は母親か』
そういって眉間の皺が深くなるけれど、別に構わない。だって心配してるのは本当だし、寂しく思うのだって。
平気だよ、なんて言ったら嘘になるけれど。夢を現実にする為。応援するって泣かないって決めたんだ。他の誰でもない、夢を追う貴方の姿が大好きだから。
無理を言った。駅のホームまで見送りに行くと。本当は、私の寂しそうな顔を見たくないからなんだよね。辛くなるからそう言ったんでしょう?
有難う、有難う。
優しい優しい貴方。
いつでも私の事を思ってくれる貴方が、大好きだよ。
『じゃあね』
『……おう』
いつもより2割増の怒ったような顔。実は怒ってるんじゃなくて、ただどんな顔をしたらいいか解らないだけなんだろう。
(感情表現が不器用な貴方)
(離れてしまっても、変わらないで)
(波に流されないで、いつまでも不器用な貴方のままでいて)
『じゃあな』
『うん』
交わした言葉は数える程度。その短い言葉の中にはどれぐらいの気持ちが込められているんだろう。
駅の改札口。
人込みの中に徐々に消えていく、鮮やかなシルバー。
小さくなる背中に、ドクンと胸が強く鳴く。何かが込み上げて来て、不意に溢れそうになるのは
"行かないで"という我が儘な言葉
零れそうな涙。
『雛森!』
人込みの雑音の中、聞こえたクリアな音。聞き間違える筈ない。
見上げた先には 彼の柔らかな笑顔、が
(日番谷く、ん)
こんなにたくさんの人が行き来しているのに 彼の姿は見失う事はなく
(世界にはたくさんの人が居るのに)
私の瞳に強く焼き付けられたのは、やけに綺麗な翡翠。
時間が止まる。
此処には私達だけ、
『 』
それは音を発する事なく口の動きだけで
きっと自惚れじゃない。
きっと間違いじゃない。
じんわりと優しく心を包むのは、嘘みたいに優しい彼の言葉。
"待ってろ"
涙で霞む視界。
涙が零れたっていい。
声が震えてもいいから、伝えたい言葉があった。
『いってらっしゃい、日番谷くん!!』
『ああ、』
笑えてたかな。ひどい顔で送り出しちゃったかもしれない。
それでも満足げに笑って、消えて行った背中。
私は彼の言葉を強く強く刻み付けて、ゆっくりと涙を拭った。
(私は此処でずっと待ってるから。頑張ってね)
希望に満ち溢れた青空を見上げて
青空特急
(行き先は希望!)
Fin
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久しぶりな日雛。
遠距離恋愛へのカウントダウン。
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