Short story2
□月夜の鬼事
1ページ/1ページ
(さあ、僕を)
(捕 ま え て み ろ)
今宵も深い闇の中浮かぶ月。神秘的な淡い衣を纏いそれは地に降り立つ。
砂利を滑る草履の音が、やけに大きく。暗闇に溶けては消える。かつてない程の静寂の中、鬼は気配を、息を殺し。呼吸が荒い。まるで身体そのものが、それであるかのように脈を打つ。それは何より生きている証。
古来より、人はそれを心の臓と呼んだ。故に必ず人が持つ目に見えず不確かなそれは、その場所にあるのだと答えるのだろう。
暫くは大丈夫そうだ。呼吸を整えてそう一瞬気を緩めてしまった。大丈夫だ。その根拠のない確信が、油断と隙を作ってしまったのだ。
それ程の実力を持つ者には、一瞬でも充分過ぎるぐらいだった。
銀の衣を纏いて一歩先に降り立つ鬼。ゆるりとした動きで、だが確実に追い詰め、
『捕まえた』
掴まれた腕。
脈打つ鼓動が敗北を宣告。
ずっと逃げていたかったのだと思う。
だがどこかでこうなる事を望んで、いて。
『僕の負け、だ』
『約束。守って貰うぜ』
『ああ、約束だ』
今宵、深い闇と銀
(交わる)
僕を、捕まえてみろ
君が勝ったら、その時は───
Fin
────────
銀九。
とにかく不思議な感じを出したかった。
鬼事=BLEACH作中に出て来る用語(?)を拝借.追いかけっこ・鬼ごっこの意。