Short story2

□幸せ体温
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遠い昔。
(まだ小さくて、世界のことをそんなに知らなかった頃の。温かくて、幸せな夢を見た)




ぱちり。
それは唐突に瞳に入る狭い景色。此処は何時もの寝る場所だ。まだ半分は夢の中なのだろう、小さな欠伸を一つしながら寝返りをうつ。今世の中は地球温暖化がどうのと騒いでいるが、どうにも冬の朝は寒くていけない。布団の温もりから中々抜け出せないのだ。その力たるや、寝起きの人間には凄まじく効力を発揮するとても厄介なものである。まだ暫くは微睡みの中に溶け込んでいたくて…今だけ、となんとも馬鹿なことを頭の片隅で考える。



(布団と一心同体になりたい…)




寝惚けた頭で考えると厄介なのは、普段では考えそうもないような突拍子もないことを無意識のうちにやってのけ(または考え)たりすることである。この時も普段なら馬鹿馬鹿しいことに分類されるであろう考えに、疑問すら覚えなかったのだ。


しかしいくら寝惚けているとはいえ、だ。一般的にはさすがに「布団と一心同体」はいただけない。もしもそんなことをしたら一緒に干されるわ叩かれるわ───本当に災難である。



さて。
またうつらうつらと眠りに誘われている彼女の寝室に近付く一つの足音。それは品の無い足音ではなく、あくまで教育の行き届いた静かなものだ。




「…神楽ちゃん、朝だよ」




声が響くと同時にそっと開く襖。隙間から差し込む光りが眩しくて、思わず目を強く瞑り眉を寄せる(俗にいう不機嫌そうな顔だ)。そして光りを遮るように布団を被って「んー…」と生返事。それに対してなのか、相手が苦笑いをしたのが何となくわかった。




「おはよ、神楽ちゃん。朝ご飯もうすぐ出来るから起きたほうが良いよ?銀さんも起きてる」

「…ウン…」

「ハハハ…寝惚けてるね。さっき銀さんを起こした時もそんな感じだったんだけど…」




"銀さんとよく似てる"

続きであるそれは最後まで言えなかった。


何故なら、彼女が彼の服の袖をギュッと掴んだから。




「か、神楽ちゃん?どうしたの?」

「んーん、何でもない…。今日の献立は何アルか…?」

「えっ?…えーっと、昨日は臨時収入があったからね。だから今日は玉子焼きと漬物…奮発して大根の味噌汁も付けちゃうよ」

「…ウン、わかった。直ぐ行くアル」

「…?うん…じゃあ待ってるね」



少し不思議そうな顔をしながら、それでも嬉しそうに顔を綻ばせてスタスタと台所に戻っていく背中を見ながら、大きく背伸びをした。台所から漂ってくる美味しそうな匂いに高揚感を感じながら、ゆっくりと居間に向かう。



夢と同じような温かさにむずかゆく思いながら。
不思議ともう寒さは感じなかった。











遠い昔。
(まだ小さくて、世界のことをそんなに知らなかった頃の。温かくて、幸せな夢を見た)



ぱちり。
それは唐突に瞳に入る高い景色。此処は何時もの寝る場所──寝室だ。まだ半分は夢の中なのだろう、小さな欠伸を一つしながら寝返りをうつ。



(…今何時よ?)



今世の中は地球温暖化がどうのと騒いでいるが、アレは実はうそなんじゃないかと思う。どうにも冬の朝は寒くていけない。布団の温もりから中々抜け出せないのだ。その力たるや、寝起きの人間には凄まじく効力を発揮するとても厄介なものである(怠けている訳じゃなく。断じてなく)。まだ暫くは微睡みの中に溶け込んでいたくて…今だけ、となんともアホなことを頭の片隅で考える。



(布団と一心同体になりたい…)




実は一緒にこの家に住んでいる少女も数分後に全く同じことを考えてしまうのだが、それを彼は知るよしもない。




さて。
とにかく二度寝しようとうつらうつら眠りに落ちようとした彼の寝室に近付く一つの足音。ゆっくりと開く襖。物音に半分眠っていた精神が浮かび、何事かと引っ付く瞼を少しだけ開けた。



其処には、見慣れた少年の姿が。



「銀さん、おはようございます。そろそろ朝食が出来ますよ、起きて下さい」

「んー…あと120分…」

「「あと5分」みたいに言うなよ二時間じゃねぇか!!明らかに"もうちょっと"の限度を越えてますよ!?」

「うるせーなぁ…朝っぱらから怒鳴るなよ…」

「…ハイハイ。じゃあ出来たら呼びますから、あとから来て下さ…」



その続きの言葉は引っ込んでしまった。

何故なら、上司が服の袖をギュッと掴んだからだ。




「ちょ、銀さん?どうしたんですか」

「別に何でもねぇけど…」

「はい?…じゃあ何ですか?」

「…アレだ。一人じゃ起きんの怠いから手ェ引っ張れ。頑張れーメガネー」

「テメェが頑張れよ。僕だって忙しいんですよ?なんでそんなことしなきゃならないんですか」

「良いから引っ張れ新八クン。寒ィんだよ布団の魔力に勝てねェんだよ」

「………ハイハイわかりましたよ。起こせば良いんでしょ起こせば!!」




これではまるで大きな子供だ。
しかし駄々をこねた奴は頑固で、朝食が出来た後呼んでも自分からはテコでも動かないだろう。このオッサンの扱いに慣れた少年は、長引かせるのも面倒なので潔く折れてやることにした。



グイッ。
勢い良く引っ張ると、案外簡単に上司は起き上がった。なんだよ自分から起きる気はあったんじゃないかと思ったが、言わないことにする。




「じゃあ僕神楽ちゃんを起こしてくるんで、銀さんは先に居間に行ってて下さい」

「…おー」




言えない。
急に寂しくなったから甘えてみただなんて。




* * * * *


朝食を食べたあと。
今日は天気が良いので、久しぶりに布団を干すことにした。太陽の光りと匂いを吸い込んだフカフカの布団で今日は眠って貰おう。そう考えて布団を持ち上げる少年の横顔はまさに主夫そのものだった。



「何、布団干すの?」

「ええ。今日はあったかいんで」

「マジでか。気が利くアルな」

「ハハハ、ありがとう」




その会話にふと思う。今日はやけに二人とも僕に気を掛けてくれるな、と。何をするにも、一々声を掛けてくれるのだ。それに良く姿が目に入るというか、移動する度に着いてくるというか……



(ってゆーか、やけにベタベタしてくる…?)




まるでカルガモの親子のように。


こっちが右に行けば二人も右に行く。一体どうしたというのか。今だってそうだ、ただ布団を干しに行くだけなのに…居間でくつろいでいれば良いのにわざわざ近くで待っていてくれている。




(…?)




すっかり温かくなった布団を取り込んで一息つくと、神楽が干したばかりの布団にダイブした。コラコラペッチャンコになるよと諭すと、少女はフフ、と笑って言った。




マミーみたいアル、と。



フカフカ布団の温もりなのか、それとも僕のことなのか。少しだけ驚いて、どっちにとったら良いのか悩んでいると、彼女はまた笑う。



「銀ちゃん、新八。一緒に川の字で昼寝タイムヨ」

「えっ?別に良いけど…なんでいきなり?それにそれ干したばっかりだよ?」

「まあまあ。暑苦しくてしゃーねーがたまには良いんじゃねーの?」



見ると此処の上司もいつの間にやら少女の隣に寝転んでいた。おーこりゃ良いわと何度か寝返りを打つ。



(なんだか親子みたい、)



その光景が何だか微笑ましくて、緩む頬を隠せなかった。



「新八、お前も来るヨロシ」

「ハイハイ」





(今日見た夢は、温かくて幸せな夢だった)
(起きたらそれが消えてしまう気がして、寂しくて)
(でも君が居てくれた)





悔しいことに。
認めたくはないがハッキリと。
彼にその面影を重ねてしまっている。母に、師の姿に重ねてしまっている。




遠い昔に感じたあの手の温もりを、優しさを。彼の姿に思い出したから。

(柄にもなく甘えてみたくなったんだ)




温かな朝食

温かな布団

温かな"家族"




幸せで、むずかゆくて、眩しいくらいに温かい居場所が此処には在った。



思い切って抱き付いてみたら、どんな表情をするんだろう。







幸せ
(僕らは家族だからね、)




どうしようもなく幸せで、胸がいっぱいになったある日の午後。




Fin


────────
甘えん坊な銀さんと神楽ちゃんにマミーな新八。家族愛って良いなぁ(´∀`*)

ってな訳で遅くなり過ぎな1&1記念フリーです!!(え)

とにかく家族!家族愛です。そしてオカンな新八。新八に甘える二人が書きたかったんですが、かなり失敗したような気がする…(苦笑)それと幸せな3人家族が書きたかったんですが、表現出来ているかな…?←

大変遅くなりましたが、こちらはフリーですのでもしお気に召しましたら持ち帰ってやって下さいませ。報告は任意ですので(^^*)


1周年&1万打、本当にありがとうございました…!



2009.01.24
管理人・桜子


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