Short story2

□朝日が昇る前に
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知ってたよ、お前が悩んでることぐらい。何も出来ないからせめて、せめてこれだけはさ。





朝方近くに携帯の振動音で目が覚めた。手探りでなんとか携帯を探しだし寝ぼけ眼でディスプレイを確認すると、それはあの騒がしい悪友からだった。




着信アリ。表記は「ケイゴ」




一体今何時だと思ってるんだ。いやだがしかしこんな時間だ、もしかしたら緊急の連絡かも──なんて未だに振動し続ける端末を見つめて思う。相手はあの「ケイゴ」。奴のテンション的に今の時間帯はちょっと遠慮したい相手である。




思わずため息が漏れる。
今一度確認。──未だに着信中だ…しつこい。




もう一度だけため息を吐き、意を決して端末を耳に当てる。…あの野郎、ふざけた内容だったら今度学校で一発蹴り入れるからな(こちとら寝起きでましてやこの時間帯。誰だって不機嫌にもなるだろう)




ピ、という軽い電子音のあとにこの時間帯にはとても似つかわしくないテンションの声、が…




「あ、やっと出た。こんな時間に悪いんだけど…今からちょっと出れねェ?」




……アレ。




「なんかあったのか?お前」

「え、何で?」

「…や、なんかテンションがな」

「馬鹿だなー一護。さすがにこの時間帯までテンションアゲアゲは疲れるだろー?」

「お前に馬鹿呼ばわりされたら終わりだな」

「アハハ、ひっでー!…ま、取り敢えず出て来いよ一護。水色もチャドも来てる」

「…一体何の用だよ?」

「良いから良いから。あ、校門の前に居るから。自転車で来いよー?」

「この寒い時期に自転車ってお前、」

「じゃあな!早く来いよー!」

「なっ、オイ!啓吾!!」




一方的に切られてしまった。
…ああ、失敗した。ツッコミを入れるところを間違えたんだ。間違えなけりゃ上手いこと奴を言い負かして断れたのに。テンションがどうのの問題じゃない。随分唐突だな、とか大体おかしいだろこの時間帯に、とかもっとあった筈なのに。何時もとテンションが違うことに違和感を感じて流されてしまった。柄にもなく心配したじゃねーかチクショーめ。


通話終了の画面を数秒睨んだあと、またため息を一つ。全くしょうがない。このまま二度寝ですっぽかすのも一つの手なのだが、どうにも気になって寝られそうにないし目も冴えてしまった。それに人を待たせたまま寝られる程、自分は図太い神経を持ち合わせておらず、ロクデナシでも無い。



「はー…ったく、しょうがねぇな」



ちゃっちゃと支度を整える。流石に寒さが堪えるので防寒対策は万全に。眠っているであろう妹二人はいいとして、父は起こさないように慎重にしなければならない(起きると色々面倒だ)


トントン、と軽快なリズムを刻む足。階段を降りればもうすぐ玄関だ。



(目指すはもちろん、先程の)



朝方の静寂の中だからか、やけに自転車を漕ぐ音が耳につく。冷たい空気が容赦なく肌を襲うので、マフラーをつけてきて正解だったようだ。ちょうど信号が赤だった横断歩道の待ち時間に崩れて来たマフラーを直した。


正直キツい。なんでこんな時間にこんな目に合わなきゃいけないんだ。本当は今布団の中でぬくぬくと眠っていた筈じゃないのか。まあたくさんの啓吾に対する苛立ちやら虚しさが襲ってはくるが、やはりこれは気にした者負け。ただひたすらに、無心で自転車を漕ぐことに専念しなければ負ける。



暫くして、漸く通い慣れたあの校門。何故だろうか、見慣れた何時もの門なのに今はとても輝いて見えるのは。



(…アホか俺は)



自らへのツッコミもそこそこに、校門付近に目を凝らすと、見慣れた姿を確認することが出来た。



「あ、一護」

「…ム、」

「遅いぞいっちごーーっ」



子供のようにぶんぶん手を振ってる奴はガン無視。テメェさっきこの時間にテンション上げるのは疲れるとか言ってなかったかよ?なんて思いつつ、とりあえず水色とチャドには詫びを入れねば。



「わりィ、待たせた」

「ううん、いきなり連絡入れた啓吾が悪いから気にしないで。電話だって無視してくれても良かったのに」

「……そうはいくかよ」

「アハハ、一護らしいね。そういうお人好しなとこ嫌いじゃないよ。ね?チャド」



水色の隣に居るチャドも「ああ、そうだな」なんて言いながら笑っていた。なんだソレ。なんだか照れくさくて、プイと顔を反らした。



「あ、照れてる照れてる」

「…うるせェよ。つか行くとこあんなら早く…」

「ちょ、オイ!俺を無視して勝手に話を進めるなーっ!計画したの俺だぞ!?なんで見えない壁がいつの間にか出来てんの!?」

「五月蝿いなぁ…朝方なんだからもうちょっと静かに出来ないんですか浅野さーん」

「敬語いやぁぁぁあ!つーか「うるさい」を漢字で言うことねェじゃん!よくわかんねーけど余計傷付くから!!」



全く、さっきから何なんだコイツは。電話で言ってたのとやってることが違うし。つーかやっぱりコイツが計画したのかよ!

啓吾、呼び掛けて手招き。え?何々?と不思議そうな顔して近付いて来た悪友にキックを食らわせた。仕方ないからコレでチャラにしてやる。かなり痛いのか、転がり回る啓吾(大袈裟な奴だ。そんなに強くやってねーよ)を横目で見つつ呆れて今日何度目かも数えるのも面倒になったため息を一つ。…こんなにため息ついてたら幸せが逃げるな。幸せがマジで逃げたらどう責任とるんだお前。



「ったく、コイツは…」

「…一護、浅野は大丈夫なのか?」

「ああ、心配すんなチャド。特に問題ねーだろ」

「いやいや問題アリだからな!?生憎俺はアイアンボディーなんて持ち合わせてないんだぞ馬鹿野郎ーっ!暴力反対ぃぃぃ!」

「アハハ、まさかチャドじゃあるまいし。でもあの蹴りは結構効いたみたいだよ」

「無視もいやぁぁ!!頼むから話聞いてぇぇ!」



とりあえず放置して自転車に跨るが、啓吾は未だに転がり回っている。おい早く起き上がらねェと置いてくぞ。



(でもね一護、とりあえずはコレで許してあげて。アレでもちゃんと一護のこと考えてるから)



耳元でボソリと呟かれた言葉。
驚いて水色に目をやると、ふわりと笑顔を浮かべていた。それに多少驚きはしたけれど、アイツの性格は解ってはいるつもりだ。知ってた。気付いてた。勿論チャドや水色が集まった理由も。でもそれは自意識過剰かと思って、言わずに考えるだけにとどめてたんだ。



(俺の為に何か計画してくれたのか?なんて、)



ああ、知ってるよ。
アイツは悪い奴なんかじゃないって。友人思いな奴なんだって。だから俺達はつるんでるんだ。一緒に馬鹿やってるのが楽しいからつるんでるんだ。


そっとチャドと水色に目配せする。全てを見透かしているかように頷いて笑った水色と、チャド(チャドは親指を立てた)


馬鹿みたいなことやってる今に物凄い充実感を感じるのは、俺だけじゃないだろ?



「オラ、立て啓吾!」

「痛ってぇっ!!」



物凄い勢いで飛び起きた啓吾に我慢出来ずに3人で思い切り笑ってやって、我先にと自転車を漕ぎだす。後ろから「ちょ、待て!俺を置いてくなーっっ!」なんて聞こえたけど知ったこっちゃない。それも笑いを誘う材料にしかならずに、馬鹿みたいな速度で自転車を漕ぎながらまた3人で吹き出した。



目的地も聞かないままに。
追い抜かれては追い抜いて、ただがむしゃらに自転車を漕いで、漕いで、漕いで───




「疲れた…もう漕げねェ…」

「アハハ、一護凄く必死に漕いでたもんね…」

「…ム、小島も凄い汗だぞ」

「あ、ホントだ…風邪引いたら啓吾のせいだからね」

「なんでだよ…つか馬鹿は風邪引かないんだから大丈夫だろ…」

「大丈夫じゃないよー僕は馬鹿じゃないし。…繊細ですから誰かさんと違って」

「誰かって誰!?ままままさか俺じゃないだろうな!?」

「あードンピシャ。流石ですね浅野さん」

「いーやーぁぁぁ!!」

「元気だなお前…」



自転車を漕ぎまくり疲れた身体を寝転ばせたのは、真っ白い砂浜。啓吾から逃げまくり、ヘトヘトになりながらもたどり着いたのがこの場所だ。


横たわると汗ばんだ肌に砂がくっつくものの、不思議と気分は清々しかった。


いつの間にか顔を出した朝日に、海もキラキラと輝いて。



「あ、水平線から太陽が顔出してる」

「お、マジだ。そんなに漕いでたのか?俺ら」

「…ム、」

「おお…!なんか良いことがありそうな予感がするぜ!例えばとんでもないぐらいの美女との出逢いとか!!」

「「それはナイ」」

「おっ、お前らそれが親友に対する態度か!?助けてくれチャドーっ!」

「………」

「…ほら、チャドが困ってるからやめなよ啓吾」



波によってゆらりゆらりと揺れる光。眩しさに目を細めつつギャーギャー騒ぐ啓吾とそれをたしなめる水色とそれを見守るチャドを見ていると、もう色んなことがどうでも良くなってくる。



(啓吾に対する怒りも、いつの間にやら治まって)



此処は海辺で、しかも季節は冬。
だけど自転車のおかげで身体は温かく、逆に調度良いくらいで。



「なぁ、啓吾」

「ん?どーした一護?」

「此処まで来ちまったけど…なんか他に行くとこあったんじゃねーか?」



キョトンとする啓吾に、純粋に聞きたかったことをぶつけてみた。
海辺で、誰も居ないからこんな馬鹿騒ぎしてる。啓吾も楽しそうに笑ってるからもう気にする必要のないことかもしれないけれど、興味はあったんだ。


するとそいつは何時もの弾けた笑顔じゃなく、普段あまり見せることのない大人びた柔らかな笑顔を見せた。




「いーんだよ、もう」



この時のそいつは嘘みたいに優しい表情をしていて(本当に啓吾か?と疑った程に)



「ただみんなで馬鹿騒ぎしたかったんだ」



そう言って水色とチャドを交互に見るその姿は、シャクだけどやけにカッコ良く見えて(本人に言うと調子に乗るから決して言わないが)あまりの衝撃に目が反らせずに。



嗚呼、コイツは本当に馬鹿だよ。
俺なんかの為にこんなに一生懸命になって、



(ただ呆然とした頭で感じたことがたった一つだけあって、)

(それは"ありがとう"の五文字)



柄にもなく良い友人に出逢えたことを、感謝したりして。



だけど普段お馬鹿キャラな奴が「カッコいい言葉」を言うだなんて似合う筈もなく。


ハッと我に帰り爆笑するのはほんの数秒後。





が昇る前
(でもありがとな、)




Fin


───────
一護とチャドと水色と啓吾。
現世組とか言っといて一+ルキ+織+雨+茶じゃなくこの4人で済みませんっ(苦笑)

でもコイツら大好きなんです(´∀`*)←

ちょっぴり何かで悩んでる一護をみんなで励ます話でした。無駄に啓吾がカッコいい(え)

恥ずかしいぐらい青春してるけど、お気になさらずに…←

こちらはフリーですので、宜しければ(^^*)

1周年&1万打、ありがとうございました!


2009.01.28
管理人・桜子


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