Short story2
□雨宿り
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たまには甘えさせるのも、悪くはないわ。
「ハイ、着替えです」
「ハハ、なんだか済みません…」
「謝るなら最初っからすんじゃねーよ」
「す、すいませんっっ!」
般若と化したお妙の目の前でひたすらペコペコ平謝りしているのは、毎度お馴染みストーカー。これでも彼はかの有名な武装集団真選組の局長を務めているというのだから、まったく驚きだ。
今日も今日とて相変わらずのストーカーっぷりをみせる彼。ただいつもと違うのは、天候だった。
「まったく…あんな雨の中を突っ立ってるなんて、どういう教育を受けてるのかしらあのゴリラは」
いつも通りのストーカーの訪問に、いつも通りの居留守の対応。
今日もいつも通り帰るものだと思っていたのに…
(あの人、あんな土砂降りの中傘も差さずにずっと突っ立ってるの。いつまで経っても決して動こうとしないの。本当にバカだわ。なんで私が自らゴリラを家の中に入れなくちゃいけなかったのかしら。)
(だってそのまま放っておいて風邪でも引いたら私のせいみたいで胸糞悪いじゃない)
そう心の中で自問自答。
そう、ゴリラを招き入れた事に特に意味なんてなくて。ただ単に気まぐれ。それに土砂降りの中放っておく程、私は冷たい人間じゃないもの。
「なんであんな雨の中、傘も差さずにいたんです?」
「いや…その、傘を忘れちゃいまして、」
嘘つき。
なんて解りやすいんだろう。そんなに目を泳がせて…恐らく誰にだって解る。
それに今朝から雨は降っていたし、昨日から天気予報でも言っていたのよ?
「雨は降らないと思ってたんですけどね…」
「…そうですか」
言ってる事がおかしいと思っているのに、あえて普通にそう返した。
この人は優しくて、きっと駆け引きなんて出来ないような不器用な人。だから家に上がる為にわざと傘を忘れたとは考えられない。
(きっとどこかで、誰かに傘を貸したか何かしたんだわ)
簡単に想像出来て、少し笑ってしまった。だって大が付く程のお人好しだし。
「傘がないなら、早く帰れば良かったじゃないですか。風邪を引いたりしたら部下が心配するでしょう?」
「いや、それは……」
彼は困ったように顔を歪ませ、言葉を濁した。
素っ気なく言った言葉は、近藤さんを思い切り困らせたようだ。…いい気味だわ。
でも言わなきゃ私も困る。傘の事は良いから、その理由が知りたい。家に上げたりなんかしなかったかもしれないのに、どうして待っていられたの?
「…お妙さん」
「なんですか?」
「あの、これ言っても怒りませんか?」
「……言ってみないと解りません。それとも、人に言えないぐらいのひどい理由なのかしら?」
バキッ。
指をならすと、近藤さんは顔を真っ青にさせる。いやいや、そんな大それた理由じゃないですお妙さん!だからその拳は解いて!…ふん、まあ良い。殴るのは聞いてからでも遅くはないから。
暫らくは『あー』とか『うー』とか意味のない言葉ばかりを並べてバツが悪そうに頭を掻くと、尚も変わらない拳に観念したのかその口を開いた。
「あ、新しいハーゲンダッシュを見掛けまして…それで、新しく出た味を、早くお妙さんに食べて欲しくて…」
「……」
「あ、もう溶けちゃってますね。ハハ、いやー流石に自分でもカッコ悪いなって思います。だからその、決して心配を掛けたかった訳じゃなくてですね…」
「……」
「‥お、お妙さん?」
……沈黙。
不思議に思って顔を覗くと、思いっきり顔を殴られた。
「ぎゃああああ!!!目が、目がァァ!」
「いきなり顔を近付けんなこのゴリラァァァ!!」
「ご、ごめんなさいィィ!」
嗚呼、不覚だ。
あのゴリラを、可愛いと思ってしまうだなんて。
(嬉しいだなんて、気のせいだわ)
「暫く雨宿りしたら、直ぐ帰って下さいね」
「あ、はい。ありがとうございます!」
「変な気を起こしたらすぐに追い出しますから」
「は、はは…」
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可愛い近藤さんに、不覚にもときめくお妙さん。