Short

□スイッチ
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『失礼します』


声をかけたがいくら待っても返事は返ってこない。
部屋の明かりはついていて、障子には机に向かうシルエットが浮かんでいるのに。

『入りますよ〜』

小声で許可を取りながら、静かに障子を開ける。

…やっぱり。

筆を握ったまま机に突っ伏している愛しい人。
すやすやと寝息を立てる背中に思わず頬が緩む。
夜食に持ってきたお茶とお煎餅とマヨネーズを机に置いて、体が冷えぬようそっと毛布かけてあげた。


「…ん…俺寝てたのか…」

しばらくすると、副長がむくりと頭を上げて起き上がった。
滅多に聞けない無防備な擦れた声。

『おはようございます、副長』
「…んだよ、来てたんなら起こせばいいだろ」
『疲れてらっしゃると思いましたので』

あまり弱みをみせたがらない副長は、頬を少し赤らめてそっぽを向いた。

「待ってろ、すぐ終わらせる」
『はい』

サラサラと筆を滑らせる音がする。
私は筆を握る節くれだった手を見つめていた。

「なぁ」
『はい?』
「二人の時は敬語使うなって行ったろ」
『でも、副長が仕事されてる間は私も女中ですから』


見つめていた手がカタン、と筆を置いた。
かと思ったら、私の方に伸びて腕を掴まれる。
反対の手も腰に回され、厭らしく撫で上げられた。

さっきまでのかわいい寝顔はどこへやら。
意地悪な笑みに細められた切れ長の目が、私を至近距離で見つめてくる。

「仕事が終わったら…?」

『…あなたの…女です』

恥ずかしくなって顔を反らすと、噛み付くようなキスに捕らえられた。
口内を犯される感覚に気を取られていると、いつの間にかゆっくりと押し倒されていた。

『ふ、副長…お仕事は…』
「スイッチ入っちまった。こっちが先だ」

焦る私をよそに、副長は舌なめずりをして私を見下ろす。



さぁ、めくるめく男女の時間。



(…副長のスイッチはずいぶん簡単に入るんですね)
(それは俺への挑戦と受けとっていいのか?)
(……お誕生日おめでとうございます)
(…!)
(…あ、スイッチ…)
(うるせー見んな!)


ハッピーバースデー副長。


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