港はまだ薄暗い。

停泊している船もなく、波の音だけが耳に心地よい。


総督は私の前を黙々と歩いていく。

身長は…それほど高いとは言わないが、歩くスピードが違うのか、私の方は時々小走りにならないと追い付けない。


「…遅ェよ」

見かねた総督が、私の左手を引いた。

親指から順に指同士が絡み合う。

恋人みたいな繋ぎ方で気恥ずかしい。


総督はどんどん歩いていく。

船が停泊できそうなところからは離れて、海岸線に沿って進んでいる。


『どこに向かっているんですか?』

「いや…そろそろだな」


そう言って総督が空を仰いだ。

私もそれに倣って空を見上げた。


薄らと橙がさし始めた北の空に不自然な黒点が一つ。

それも徐々に大きくなっていく。


『…?』

「来たか」

総督の足が止まった。

黒点を目で追いかけながら歩いていた私の肩が、ぽすっと音を立てて総督の胸元におさまる。


『あれってもしかして…』

見覚えのあるそれは、以前の私達の本船とは程遠い、小さな乗り物だった。

似蔵が紅桜一本手に敵船に突っ込んだアレ。

…あの後、バカみたいに修理代がかかったアレだ。


乗っていたのは似蔵ではなく。


『万斎!』
「いたぞ!!高杉だ!!」








[TOPへ]
[カスタマイズ]

©フォレストページ