二人の軌跡

□潤んだ瞳と少女
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「…んーっ!いいお湯だったわ♪」
お気に入りの寝巻きに身を包んで、エステルは階段を降りながら延びをした。
ヨシュアは水の入ったグラスを片手に、椅子に座っていたが、どこか力が抜けているように感じた。

「…どうしちゃったのよ、ヨシュア?」
と、椅子に近付いた瞬間。

「すきだ!!」
「…へっ?……きゃっ!!」
突然の抱擁。
やっぱりいつものヨシュアじゃない…と、抱き着かれたままでエステルは思う。
思えば、帰ってきたときから、ヨシュアの様子はおかしかったのだ。
疲労のせいにしていたが、これは違う、とエステルは思った。なにより、ほんのり漂ってくるアルコールの香りが全てを物語っている。
きっと、依頼主の人にたくさん飲まされたのね、とエステルは思った。そして、ヨシュアはたくさん飲むとこんなことになるのか、とも。
今まで、ここまで酔い潰れたヨシュアは見たことが無かった。

「しかしまぁ…どうしよう…」

「……ん…あつい…エステル」
そういって見上げてくるヨシュアの瞳は潤んでいて、いつもの彼からは想像もつかない状態だった。

「ヨシュア…?」
不覚にも、胸が高鳴る。
エステルは、腰に回されている腕をどうにか引き離そうとして、やめた…というよりも、あまりのヨシュアの力に、やめるしかなかった。
そして、やっぱり男の子なんだ、と実感する。

…どうしよう。エステルの頭の中にはその一つの単語が巡っていた。
「…エステル…離れないで…」
ヨシュアの顔が泣きそうに歪む。初めて見る表情にエステルは戸惑い、しかしヨシュアの意識がはっきりしていない事に気づいて、そっと
「……あたしが、離れるわけ、ないじゃない」
呟いて、優しく、愛しい彼に触れるだけの口づけ。

そして

「…たまには、可愛いヨシュアを見るのも良いかもね♪」
抱き着いたまま離れようとしない、まるで子供が甘えているようなヨシュアを、ギュッと抱きしめた。
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