二人の軌跡
□接触
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「おやすみ……ヨシュア」
いつものように、彼女が明かりを消す。
同じ部屋で寝るようになったのはいつからだろう。
彼女が甘えているのか、それとも……
接触
「今日……一緒に寝てもいい?」
ある日、エステルが僕の部屋に入ってきて言った言葉。
僕はいつの間にか習慣になった読書もやめ、眠ろうとしていたところだった。
「……、ぇ」
硬直。
無理はない。なぜなら彼女は今までこのように甘えてきたことがなかったからだ。
――確かに僕と彼女が再会した時や、ある都市が崩れそうになった時にも彼女は僕を求めたが。それは例外と言っていいだろう。
それから先、二人が恋人同士になってからも、彼女が僕に甘えてくるのはこれが初めてだった。
「いいよ、一緒に寝ようか」
「なんか今すごい間があったわね…まぁいいけど……」
もごもごと文句を言いつつ、僕のベッドにもぐりこんでくるエステル。
かなり前、まだ二人が小さい頃、エステルが勝手にベッドにもぐりこんできたことがあったが、あの時よりも狭くなったな、と思う。
まぁそれはあたりまえの話、なのだが。
それよりも……余計な事を考えないと。
隣の温かみに負けないくらいにインパクトのある、余計な事を……。
「ん……あったかい…♪」
「そうだね……」
もぞもぞと、彼女が動くたびにサラ、と流れる髪から、ほのかにシャンプーの香りと、なんともいえない女の子の甘い匂いがした。
「……」
「……、」
流れる沈黙に、もはや居た堪れなくなってくる。なにか話さなくては、と焦る。
しかし横を見ると彼女は幸福そうに微笑んでいた。
沈黙。沈黙は美徳とよく言うが。
我慢…出来るだろうか。
いや、
こんなにも甘いものを目の前にして、我慢なんてしていいのだろうか
なんて野蛮、犯罪めいている。自分でもわかっているが、しかし…
「……あの…エステル?」
「……うん?」
「……僕たちって…恋人…だよね?」
「ぇ……、あ…うん」
思い切って話しかける。
一度開いた口は止まる事なく言い訳を続ける。
ああ、
「でも……家族だよね?」
「………そうね」
そうだ。僕たちは恋人である前に家族。
無理矢理だったが彼女は僕の……姉だったはずだ。
もう、我慢なんてデキナイ…
「だったら…こんなことしちゃ…駄目、だよね?」
言って、彼女の首筋をそっと撫でる。健康的なのにきめ細かいソレに、少ない理性がとろけそうに……否、理性など当の昔にとろけきっているが…。
「んっ…ヨ、ヨシュア?」
甘い、彼女の声。
はっと我にかえり、手を離す。
「ご、ごめんエステル…僕…」
「あっ、あのね…ヨシュア」
そうして。
彼女は、とんでもないような…コト、を
「もし…それでヨシュアが辛いのなら……その、私達が……ちゃんと恋人ってわかるように……忘れないように………して、いいよ?」
ゴクリ、と
自分の喉が無意識になるのが聞こえた。
……いや、まだだ
まだ…いけない
僕に、彼女を汚すことなどできないから。
だから…せめて優しく
「………ぅ、ん」
優しく。祈るように。
暖かな唇に……重ねた。
前の儀式のようなソレとは違う、求めあうようなキスをする。深く、彼女を感じた。
「……えっと…どう…かな?」
夜の微かな明かりのなかで、彼女の頬が紅くなっているのがわかる。
「ど、どうって…そんな…い、言える訳無いじゃない…バカ」
「……でも、嬉しかった…ありがと…」
少し間をおいての、一言。消え入りそうな声だったけれど、確かに聞き取ることが出来た。
今は、まだ
これで十分。
「うん……それじゃあ、寝ようか」
「……そ、そうね」
「おやすみ、エステル」
「おやすみ、ヨシュア」
二人の夜は更ける。
先は、まだまだ長そうだ。