二人の軌跡
□寒いから、手を繋ぐ
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コツン…と
さりげなく彼女の手があたった…気がした。
「言えるわけ無いじゃない…ヨシュアのばか」
「えっ…と、どうしたの?エステル」
―――
季節は冬。
ルーアン地方での依頼を終えたあとの、余った時間で、銀の世界となった浜辺を歩く。
「いやー今年は降ったわね…去年あまり降らなかったから、今年も降らないのかな〜なんて思ってたのよ」
「そうだね…」
雪は好きだった。
見たくないものを覆い、醜い心も隠してしまえるとおもっていたから。
けれど…
今は…違う理由で雪が好きになった。
それには、目の前で無邪気に駆ける少女を見ていられる…という理由もあるが…いやいや、一番は
どんなに深く降り積もった雪でも、輝く太陽をもってすればいとも簡単にとかしてしまえる…ということを実感できるから。
そんなことを考えていたら、遊び疲れたのか、彼女が帰ってきた。
「ほらヨシュア見てみて、ミニ雪だるま〜♪エヘヘ、可愛いでしょ」
「うん…可愛い…」
「……っ」
ちょっとだけいじわるをして、彼女の目をみてそういうと、案の定彼女は顔を真っ赤にして、なにやら呟いていた。
出来るならずっとからかっていたかったが、夕日も傾いてきた。
「そろそろ、帰らなくちゃね」
「んー…そう…ね」
いつもならあっさりと夕食の話題に切り替わるエステルが、今日は何故か立ち上がろうともしなかった。
寒い中遊んでたから、少し体調でも崩したのかな…
そう思って、再び彼女の隣に腰を下ろす。
…と、不意に、
コツ、と、冷たく滑らかな何かが、手をかすめる。
ハッとして横を見ると、彼女はほんのりと染まった顔…夕日のせいかもしれないが……で、自らの手を包んでいた。
「………言えるわけ…」
「?…エステル?どうしたの?」
「いっ…いやその…夕日を…もうちょっと見たいなぁ〜…なんて…エヘヘ」
「じゃあ…沈むまで眺めようか」
「う…うん」
沈黙…
…膝が…少しだけ暖かい
気づかれないように目をやると、赤くなった彼女の手が添えられていた。
あれだけ元気にはしゃいでも、やはり女の子だなと…思った。
肌でさえ健康に焼けてはいるが、指はしなやかに細く、爪も綺麗に整っている。
「ん…冷たい…よくこんなになるまで遊んだね…エステル」
我慢できなくなって、添えられていた手を両手で包み込む。
「…、ぁ……」
彼女が、一瞬だけ瞳を伏せる。これは、恥ずかしがっている証拠だ。
「あ…そ…その…ごめんエステル…つい…」
慌てて手を離す。
彼女の瞳が揺れる。
「……ヨ…ヨシュア…」
「えと…何?」
彼女はサッと横を向いてしまう。も、もしかして…嫌…だったのかな…
なんてことを考えていると、彼女はなにやら呟いている。
「なんて………るわけ」
「ん?どうしたの?エステル」
「…っ…手、繋いでなんで…いえるわけないじゃない!ヨシュアの馬鹿!」
!?
「えっ……と…ど、どうしたの?エステル」
「…あ、あたしは…あんまり女の子らしくない…から…で、でもっ!ヨシュアのせいでもあ、あるんだからね!」
「えと…つまり…エステルは僕と…手を繋ぎたかったの?」
「ばっ…!ばか!はっきりいわないの!」
「……ふぅ…そんなことなら…はっきり言ってくれた方がいいよ…君は…僕にとってはこの世に一人しかいない、可愛い女の子なんだから…」
「っ……ヨシュア…ずるい…」
「君の方がよっぽどずるい…そんな態度でいられたら…思わず抱きしめたく…なってしまう」
「〜〜っ!!ばかばか!…そ、外でなんて…駄目なんだからね!!」
「うん…わかってるよ…じゃあいこうか、僕の可愛いエステル♪」
そういって手を差し出す。
「〜〜〜!!」
照れながらも、受け取るエステル。
季節は冬。
辺り一面の銀の世界に
二つで一つの影が伸びる。