二人の軌跡

□髪に触れる
1ページ/3ページ


ある日の夜。
「むむー…」
エステルは上機嫌にお風呂に入っていたはずなのだが(何故なら居間にいたヨシュアの所にまで歌声が聞こえていたから)、数十分して上がってきて、居間についた彼女の機嫌は悪かった。

「ヨシュア…ハサミ、どこ?」
エステルは実に不機嫌そうな声で、背を向けているヨシュアに話し掛ける。

振り返ったヨシュアはとまどいを隠せず、危うく座っていた椅子から落ちる所だった。
無理もない。
年頃の少年の前に現れたのは、タオル一枚で体を隠した年頃の少女の姿。
いくら家族とはいえ刺激が強すぎる。ましてや、ヨシュアにとってエステルはひそかな片想いの相手だったりするのだ。
「……っ…エステルッ!」
頬が真っ赤に染まり、ヨシュアは慌てて目を逸らした。
「…とりあえず…服!、そう!服を着て!!」
一方のエステルは一瞬だけ不思議そうにヨシュアを見つめてから、またすぐに先程の不機嫌顔に戻って、

「今じゃないとだめ!…ねぇハサミは?」
なんて言い出した。
ヨシュアは深いため息をついて席を立ち、タンスからハサミを取り出して、
「…ハサミなんて何に使うの?しかも今すぐって」
ふと、疑問を口にした。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ