二人の軌跡

□初めて
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「おたんじょーび、おめでとっ!ヨシュア!」
今日ヨシュアがブライト家に来てから、初めての誕生日。
5日前からエステルが大はりきりでロレント中を駆け回ったためか、家の中には大きさも包装も様々な箱や袋がたくさん集まっていた。

…らしい。まだ神経質なヨシュアは、エステルがかけまわっていることにこそ気付いてはいたが、まさかこれほどまでにプレゼントが集まっているとは思わなかった。
「んっとねー…これが、ティオとエリッサからね♪」
「あ…うん、…どうも」
「で、これがリノンさんからでしょ〜」
一つひとつ、プレゼントの出所を言っていくエステル。
よくもまぁこれほどまでに集めたものだ、とヨシュアは思った。
「……最後に、これがっ、しちょーさんからっ!」と、エステルの手からヨシュアに、なにやら重いものが渡される。
形状からして、分厚い本であろう。
「エステルにはまだ早いけど、ヨシュアだったら読めるじゃろう…って!」得意げに市長の真似をして、えっへん、とさも自分が褒められたかのように胸をはるエステルに、ヨシュアは、君が褒められているわけではないと言いかけて、やめる。
そして、ヨシュアが黙り込んでしまったためか、二人だけしかいないこの部屋は静まり返ってしまった。

「……やっぱり、二人だけだと寂しいかな…?」
おずおずと、不安げにヨシュアをみながら、エステルが口を開いた。
「おとーさんもね、今日はお仕事おやすみして、帰ってくるはずだったんだって…だけど」
「知ってるよ、急ぎの仕事が入ったんだろう」
ぽつりぽつりと紡がれていくエステルの言葉を遮って、ヨシュアは言った。

「…ごめんね、ヨシュア」
と、いつもなら話を遮られると少し不機嫌になるエステルの、いきなりの言葉
「どうして。君が謝る必要はない」
ヨシュアは心の中だけで驚いて、ぶっきらぼうに応える。

「だって、せっかくの誕生日…」
「…そのことなら気にしてないから。…別に、祝われない事には慣れてるし」
フッ、と、ヨシュアの表情が曇った。

それをみたエステルは、一瞬だけ寂しそうな顔をしてから、
「…ヨシュア?……よし!じゃあこれからはずっとあたしが祝ってやる!だから、寂しそうな顔しちゃだめだぞ!今日は、ヨシュアの、たんじょーび、なんだからっ!!…ほらほら笑って〜♪」
と、ヨシュアの頬を両手で包み、上に持ち上げて、無理矢理笑顔にさせた。

ヨシュアは呆れながらも、無言で、抵抗はしなかった。
先程のエステルの言葉に驚いていたので抵抗が出来なかった、というのが正しいのかもしれない。

そして思った。
自分の心が壊れてから今までで、初めてこんなに嬉しいと感じた、と。
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