二人の軌跡

□聖なる夜に
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「疲れた…」
夕暮れ。ロレント市内にて。
商人の団体を王都まで送り届けてきたヨシュアは、ギルドへの報告を済ませ、家路に着いていた。
ヨシュアは一人だった。今日はいつもと違い、エステルとヨシュアは別々の依頼をこなしていたからだ。

ちなみにエステルは、教区長に頼まれて、薬草探しに出掛けている。しかしこんな夕暮れ時なのだから、もう帰宅しているかもしれない、とヨシュアは思った。
…家に帰れば、愛しい彼女が待っていてくれてる。
こんな嬉しいことはない。自然とヨシュアの足取りも軽くなる。

「ただいま」
と、ヨシュアは笑顔とともに扉を開く。しかしそこに待っていたのは愛しい彼女の極上の「おかえりなさい」ではなく、

「……ケビンさん?」

何故、こんなところにケビン神父がいて、あまつさえ
「ほら、エステルちゃん、あ〜ん♪」
「ち、ちょっとケビンさん!」
自分の愛しい愛しい彼女に、あーん、なんて、されているのだろう。

「エステル…?」
「ちっ…ちがうのよ?ヨシュア、これは」
「ほらほら〜お手々が止まってるでー」
見ると、エステルの手にはフォークが握られていて、先には甘そうなショートケーキが乗っていた。箱を見る限り、あれは、居酒屋アーベントの特製レアケーキだ。
ヨシュアは一目でわかった。何故なら、ヨシュアの手には同じ箱が抱えられていたからだ。それは、護衛の依頼でボーナスもでたし、今日はクリスマスだから、エステルと二人で食べよう、と、ヨシュアが買ってきたものだった。

「……もういいよ、エステル」
先程までの足取りの軽さとは打って変わって、ヨシュアは深く沈み込んだ気持ちでテーブルにケーキを置き、逃げるように自室へと向かった。
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