□チョコと魔法
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しゃく・・・と雪を踏む音が耳に気持ちよい、そんな日だった。
美鶴はいつものように買出し。何にも変わらない、いつものような日だった。

なんか今日は騒がしいな・・・

騒がしい事に敏感な(つまりは騒がしい事が嫌いな)美鶴は、いつもと少し様子の違う通りの雰囲気を素早く感じ取っていた。
そういえば今日は2月13日だったはず、バレンタインデーの前日だからかな・・・と美鶴は思った。
通りには甘い匂いとたくさんの女性が溢れている。その中に、ひときわたくさんの人がいる店があった。その店の看板を見てみるとそこには絶対叶う!おまじないチョコ!の文字・・・。

「まったく・・・こんなもんに頼っても仕方ないと思うんだけど」
並んでいる人にばれないようにそういうと、美鶴はいつものスーパーへ行こうとした・・・と、その中に、見慣れた丸っこい頭をみつけた。・・・・亘だ。
「あいつ男子だよな・・・」
目をこすっても頬をつねってもやっぱり亘はかわいい亘のままだ。
「・・・・・・・かわいい」
いや、いや、問題はそこではなくて!!!!何で亘があんなところにいるんだろう?あそこは確かにさっきのおまじないチョコの店だ。何度見返してもあの目立つ看板はいやと言うほど目に入ってくる。

からんからん

重そうなベルの音が響いた。何の音だ?
「ここまでで50人に達しましたー。今日は売り切れですー!!」
えーっ?と、女独特の高い声が響く。
不評を言う女たちを押しのけて亘は外に出てきた。と、そこで美鶴と亘はバチッと目が合ってしまった。

「・・・・ぁっ・・みつる・・・」
「やっぱり・・亘。」



主夫美鶴としてはそろそろスーパーのタイムサービスが始まる頃合なので、そっちのほうにも行きたい気持ちもあるのだが、亘と一緒ならサービスもほっとける・・と思う。
「おまえさぁ・・あんなところで女と混ざって何やってたわけ?」
近くの公園のベンチに座るなり、美鶴は思っていた事を口にする。
「それは・・・あのチョコが・・・」と亘。
「へぇ、欲しかったのか?でもなんだ?もてないからってまさか自分で買って・・・」
「ちがっ・・・!!それは美鶴にっ・・・」
「俺に・・・なんだよ」
何でだろうか分からないが、亘の赤くなった顔を見ていると、自分にもそれが移ってくるのをごまかすために、ついつい意地悪してしまう。

「そっ・・・そうだ!もうそろそろいつものスーパーのタイムサービスじゃない!?ねぇ聞いた?今日の目玉は〜〜」
「お前ごまかそうとするときすぐ早口になるのな」
全部ばればれだ、と美鶴。
しばらく沈黙が続いた。亘は恥ずかしさにうつむき、美鶴はそんな亘を見つめていた。



「やっばい!」急に叫ぶ亘。
「どうした?」と美鶴。



「今日お母さんが早く帰って来いって行ってたの忘れてた!どどど・・どうしよー!早く帰んなきゃ」
「おーおー、それはそれは」
美鶴は意地悪に笑いながら言った。

「てって、て言うことだから!またね!美鶴!」
「ああ・・」

なんだかすごく一瞬だったな・・ホント、好きな事をしていると時間の流れが早いって奴は本当に事実だよな・・
なんだかちょっと笑えた。



そして帰り道・・
さっきよりは少ないものの、あの店にはまだたくさんの人が並んでいた。店の主人はかわいそうに、きっとさっきの女の人のせいでまた作らなきゃいけないようになったんだろう。
美鶴は、さっきの亘の言葉をふとおもいだした。
「そういえば・・亘はここのチョコが食べたいと言っていたな・・」
ちょうど今日はお金も多めに持ってきていた。並んでいるのは・・14人。待つのはあまり好きではないけど・・・
ええい!亘の為だ!





・・・本当に買ってしまった・・・
たくさんの女の人に見られていてすごく恥ずかしかったが、亘もおんなじ気持ちだったのかな?なんて思うとそれも悪くないと思う。

問題は・・・・明日渡せるかだ。
毎年毎年、バレンタインの日の靴箱は・・・これはほかの男子に酷いかもしれないが・・・本当にすごい事になっている。パンパン。なんて言葉じゃ言い切れないくらい、本当に・・・
放課後や休み時間も休む暇がない。いつも女子に呼び出されるからだ。おかげで亘と引き離されるし散々だった。


しかたない・・家か亘の家で渡すしかないな・・・


 
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