彼女の幸せ

□新たな出会い
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入学式から約2ヶ月。
それなりに忙しい日々を送っていた茉莉は、学校からの帰り道にスーパーで買い物中、奈々に会った。

「ママン!」
「まあ茉莉ちゃん!久しぶりねぇ」
「ご無沙汰してすみません」
「いいのよ。ツナと同じクラスなんですって?」
「はい」
「また家に遊びにいらっしゃい」
「ありがとうございます」

二人は夕食の準備があることもあって、そこで別れた。
その数分後、スーパーを出た茉莉を、低い位置から聞こえた声が呼び止めた。

「山本茉莉だな」

振り返ると、黒いスーツをパリッと着こなし、小さなカメレオンの乗った黒いボルサリーノを被った赤ん坊がいた。
胸に光る黄色のおしゃぶりがキラリと陽光を弾く。
茉莉は、小さく愛らしい赤ん坊に対しても人見知りを発揮し、電柱の陰に体を隠した。

「怖がらなくていいぞ。俺はツナの家庭教師だ」
「…ツナくんの?」

ソロリと顔を出した茉莉の目にはうっすら涙が浮かんでいる。
あのツナが必死になって自分から隠そうとした少女をこの目で見定めようと足を運んだのだが、調査報告書に記載されていた人見知りは成る程、極度のものらしいと赤ん坊は納得した。
その上で、大きく黒目がちの瞳をキュルンと可愛らしく少女へ向けてみせる。

「俺はリボーン。今日は茉莉に会いに来たんだ」
「茉莉に…?…あの…家、すぐそこなので…どうぞ」

ツナの家庭教師というのだから、と茉莉が意を決して言えば、リボーンは「そうするぞ」と言って茉莉に歩み寄った。



「ただいま。お父さん、お客さまお招きしてもいい?」
「おう!…ん?」

ネタを作っていた剛は、娘に続いて入ってきたリボーンを見て手を止めた。
一瞬鋭くリボーンを見た目は、次の瞬間にはいつもと変わらない穏やかなものに変わっていたため、茉莉がそれに気付くことはなかったが、リボーンには勿論わかっていた。

「いらっしゃい!粋なスーツだな、ボウズ!」
「俺はリボーンってんだ。邪魔するぞ」
「俺は剛だ。ゆっくりしてけ!」


剛に了解を得た茉莉は、リボーンを居間へ案内すると、台所でお茶を用意する。
抹茶の入った濃い目の緑茶は、店でも出しているものだ。
客用の茶碗に注いで持って行くと、リボーンは卓の前に茉莉が用意した座布団の上にきちんと正座していた。

「…粗茶ですが」

音も立てずにそっと置かれた茶卓に乗った茶碗に、リボーンは密かに感心していた。
お茶の淹れ方も完璧だ。
この少女は年齢にそぐわない落ち着きと(初対面の人間の前ではかなりの挙動不審だが)、きちんとした礼儀作法を身につけており、なおかつ他人の心を落ち着かせ、儚い外見ながら柔らかな雰囲気で包み込む性質を持っている。
まだ中学生ということもあり、若干不安定なのは否めないが、それは年月が解決するだろう。

この少女はファミリーに必要だ、とリボーンの直感が告げていた。

「茉莉。おまえ、ツナのファミリーにならねぇか?」
「?ふぁみり?」

今や日本語同然に使われている言葉とはいえ、些か外国語に弱い茉莉には難しかったらしい。
リボーンは一から詳しく説明しようとした…が。

「──ツナの役に立ちたくねぇか?」
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