彼女の幸せ
□悲しみの刻
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潤んだ目で見上げる茉莉は正に「捨てられた仔犬」。
動物好きで、なにより茉莉を溺愛する二人がそれを却下することなど、できるはずもなく。
この日から、茉莉は山本家の家事一切を担うこととなったのだった…。
翌日。
忌引きということで学校もない茉莉は、剛に出掛けることを告げて家を出た。
行き先は…
「あら。茉莉ちゃん」
「こんにちは」
ドアを開けて出てきた奈々に、茉莉は深々と頭を下げた。
「大変だったわね…」
それが母のことを言っているのだと気付き、勝手に目が潤んでしまう。
奈々はそんな茉莉を優しく抱きしめた。
「辛いわね…でも茉莉ちゃんのお母さんは、いつでも茉莉ちゃんを見ててくれるのよ。それでも寂しくなったらいらっしゃい。いつでも大歓迎よ」
「…ありがと…」
少しして落ち着いた茉莉は、奈々に家事の仕方を教えて欲しいと頼んだ。
勿論、奈々は快く了承してくれて、今日は取り敢えず、簡単に掃除の仕方と洗濯の仕方、それから料理ではご飯の炊き方と味噌汁の作り方を教えて貰った。
「急いで覚えてもらいたいのはこれくらいかしら?」
奈々がそう言ったとほぼ同時に、玄関のドアが開いた音が聞こえた。
「ただいまー。…かあさん、だれか来てるの?」
入ってきたのはツナだった。
「あれ?茉莉ちゃん!」
「ツナくん…こんにちは」
「あ、こんにちは…じゃなくて、どうしたの!?」
駆け寄ってきたツナに、茉莉は僅かに笑みを浮かべた。
「ママンに、家事をおしえてもらってたの」
奈々にそう呼んで欲しいと言われ、その呼び方になったのだ。
ツナは驚いていたが、茉莉が楽しそうなのに気付くとにこりと笑った。
「そっか」
「茉莉ちゃん凄く覚えるの早いのよー。そうだわ、ツッ君。そろそろオヤツにしましょうか」
「うん!」
今日なに?と聞くツナへ、奈々は茉莉と顔を見合わせて笑った。
「クッキー…」
「茉莉ちゃんと作ったのよ」
みんながいたから、生きていける。
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