彼女の幸せ
□静かな刻
2ページ/2ページ
「今夜はなんなの?」
「えと…はまぐりのおすいものと なのはなのおひたしと たらのめのすみそあえと おさしみ」
随分と豪勢だ。
「今度僕にも作ってよ」
「おうちにきてくれるの?」
「茉莉が僕の家に来るんだよ」
「きょうちゃんのおうち?」
首を傾げる茉莉に、恭弥は肯いて答えた。
「来年から一人暮らしだからね」
「きょうちゃん五年生なのに?」
「関係ないよ。僕が秩序だからね」
そんな理不尽な。
それでも茉莉は「そっかぁ」と納得してしまっている。
長い付き合いで、恭弥の「普通」に慣らされてしまったようだ。
「後はなに買うの」
「なのはなと、おさけ」
「お酒?」
「きょうは、おかあさんのたんじょうびだから…おいわい なの」
そう話す茉莉は少し楽しそうだったので、恭弥は「死んだ人の誕生祝いってするもの?」という疑問を飲み込んだ。
「きょうちゃんの おたんじょうびも、もうすこしだね」
「…ああ、そうだね」
すっかり忘れていたといった恭弥の様子に気付いた茉莉は、おかしそうにクスクスと笑った。
「きょうちゃんたら、いつもわすれてるのね。でも 茉莉がちゃんとおぼえてるよ」
「うん。茉莉が教えてくれるから僕は忘れてても良いでしょ」
「うん」
茉莉はずっときょうちゃんといっしょ。
そんなふうに笑う茉莉は、恭弥にとって何よりも愛しい存在。
唯一変わらない気持ち。
.