彼女の幸せ
□スキナヒト
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「で、好きな人はいるの?」
一通り説明した後、花はもう一度茉莉に尋ねた。
けれど、茉莉が答えるより早く昼休み終了のチャイムが鳴り、その質問は保留とされ、放課後には三人ともそれを忘れていたのだが。
「山本茉莉!俺と付き合ってくれ!」
翌日の昼休み。
渡り廊下で呼び止められた茉莉は、突然の言葉に困った顔をした。
「…あの…どこへかは、わからない…けど…ごめんなさい…これから、花ちゃんと、京子ちゃんと…お昼、食べなきゃいけないから…」
その付き合って、ではない。
しかしここに優秀なツッコミ役は不在であった。
男子生徒が呆けている間に、茉莉は早歩きで(走ったら校則違反だと恭弥に教えられてる)教室に戻ってしまったのだが。
発端は、花の質問から始まった噂だった。
茉莉に特別好きな人がいないのなら、いつも傍にいるあの最凶風紀委員長は恋人ではないのだろう。
そう思う者が現れたのだ。
「なら、俺いってみるかな」なんてことまで考える輩が。
茉莉が告白されていたというのは、言うまでもなくすぐに恭弥の耳にも入った。
「茉莉。しばらく僕の仕事手伝ってくれるかい?」
放課後、いつものように応接室で恭弥とティータイムを過ごす茉莉に彼がそう言ったのは、勿論茉莉に告白なんて真似を阻止するため。
でもそれに気付かない茉莉は、くきりと首を傾げた。
「茉莉でも、できるお仕事?」
「うん。授業は出なくても大丈夫でしょ」
茉莉は一応中学高校の勉強は終えている。
前世の記憶もあるが、恭弥と学習した結果でもある。
ちなみに恭弥は既に大学の専門的な勉強も終えようとしている。
「うん」
お仕事お手伝いするの、久しぶりだね。
嬉しそうにふにゃりと笑った茉莉は格別に可愛かった。
恭弥が茉莉を抱きしめてしまうくらい。
「茉莉は僕のだから」
そんな放送が茉莉のいる応接室以外に響いたのは、その翌日、授業中の出来事だった。
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