オリジナル
□笑わぬ道化
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【 第一章 <仕事> 】
「第1夜 [始まりの朝]」
――――ぉい――ろ―――起きろっ―――
早朝。まだ4時にもならないと言うのに、聞こえてくるのは俺を起こそうと怒鳴り散らしている男の声。
解っているんだ。起きないといけないと言うことぐらい。でも眠いんだよ…
ボンヤリとした意識の中で、今まで怒鳴っていた男が急に静かになったのが解った。
そして胸元から黒い何かを取り出して…
次の瞬間男は俺に押し倒された状態になっていた。ったく…朝っぱらからメンドクセェ…
「よぉ、お目覚めかよ。王子様。」
「アンタ…自分の状況を見てしゃべってる?」
彼の首元には銀の果物ナイフ。このまま横に引くだけで此奴の首から大量の赤い華が咲き誇るだろう。
まあ正直なところ、目覚め一番にそんなモノなんか見たくないのだけど…
「うっせーな。つーか、いい加減自分で起きろよな?」
「―――――…無理」
「…お前いつか寝込み襲われるぞ…」
「大丈夫。寝てても殺せる自身あるから。」
「チッ…んの天才児が…」
「俺は子供じゃない」
この男、名前を“ディーア”と言う。勿論本名なんか知らない。所謂コードネームという、裏のみで通用する名だ。
俺よりも10くらい年上で兄貴ぶってるけど、どうせ俺のお目付役みたいな下っ端だ。俺よりはね…
結構スゴイ人間らしいけど、そんなの知ったことではないし…
小さく溜息をついて男の上から退くと果物ナイフをその辺のテーブルにおいて椅子に座った。
テーブルに並べられたライ麦パンと目玉焼きなどの簡単な食事を見て怪訝な表情をするほか無いのは何時ものこと。
―――…また、毒入れやがったな
この男はいつだって俺を無茶な方法で試して、遠くから眺めている。一般人では会った瞬間に確実に死んでいるだろう。
なんせ挨拶と共に硫酸をかけられそうになったからな…
「おっさん」
「なんだ、餓鬼。」
「仕事さっさと言えよ。眠たいんだよ。」
「八つ当たってんじゃねーよ……ッたく、ほらよっ」
投げ渡されたのはご丁寧に蝋印まで押してある手紙。封を適当に切って中を確認すれば小さなSDカード。
ソレをポケットから取り出した小さな機械へと入れれば、浮かび上がっていく依頼内容。
失敗の許されない仕事内容なのは何時ものことなのだが、今回は時間制限付きのようだ。メンドクセェ…
「……飯、帰ってから食べるから置いといて」
小さく呟くと、ソファに放り投げてあったコートをはおい窓から飛び降りた。