オリジナル

□過去統べる道
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小さな村で、何の特別もない平和で暖かな日々を、俺は今でも思い出す。
大切な小さい妹と、幼いなりに愛していたあの子。
何時も笑い合っていた…そんな記憶。


彼奴は俺から見れば真っ白で。
血族の人間全てから捨てられ、その記録すらけされた俺たちを優しく包み込んでくれた。
あの、何も無い暗闇に差し込んだ光は、きっと彼女という存在だけだった。


「紀芽。僕と一緒にいたら怒られちゃうんじゃないの?」
「良いよ、怒られても。だって…タクと遊んじゃダメだなんておかしいもん」


村人も、孤児院の人間も、俺を悪魔の子だと言ってリトから遠ざけ、隔離し、拒絶した。
それは俺の腕に巻き付くようにある黒蛇の痣のせい。
みんな気味悪がって、俺の息の根さえ止めようとしたのに…彼女は違った。
まるで友達にでも話しかけるみたいに俺に近づいて、側にいてくれた。

彼女の両親はそれを知って、紀芽を酷くしかりつけたと言うことを風の噂で聞いた。
だけど当の本人はケロリとしていて……まるで、怒っている方が変みたいに堂々としていた。


「タクは心配性なんだよっ!ぜんぜんっ、大丈夫なんだからねっ!!」
「でも――」
「ほらっ!ウジウジしてないで遊ぼうよっ」


ちょっと強引で、でも優しくて…俺は彼女が大好きだった…
でも、そんな幸せな時間は思ったよりも早く終焉を迎えたんだ。


『健気だねぇ〜。そんなになってまでまだ其奴を庇うんだぁ』
「タクはやくびょうがみ何かじゃないよ!私の大切なひとなのっ―――ッから、殺させない」
「止めてッ!!僕を殺したいんでしょ? だったら僕を殺してさっさと村から出てってよ!!!」
『やぁ〜だ。だって、この子を殺してからやった方が面白そうだもん♪』


真っ赤に村が染まった日。
俺を殺すために来た彼奴。
だけど…殺されたのは紀芽だった。

俺のせいで…俺が居たから紀芽は殺された…


「僕に会わなきゃ良かったね…
 僕が居たから…家族が……みんなが殺されたんだ…。僕のせいでッ」
「チガウヨ


 ちがうよ。
 私はタクにあえて良かったよ。だから…(ゴメンネ)」



最後の言葉はきこえなかった。
でも確かに彼女はゴメンネと…悪いのは彼女じゃないのに…


「タクト、お前のせいだ!!
 お前が紀芽を殺したんだ!!紀芽を返せ!タクトォ!!!!!」


あの子の親は泣き叫んだ。
泣いて、泣いて、そして死んだ。
まるで見せつけるように、俺にナイフを握らせて、俺の腕を掴んで。
ナイフは彼等の皮膚を裂いて、辺り一面血で染まった。





それから何があったのかなんて覚えていない。
只、気がついたら村の人間が全員死んでいただけ。只、俺が殺していただけ。

“Um den Himmel. Die geliebte Frau. . .”
『空へ。最愛の貴方に...』
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