作品集

□9:下駄と黒猫
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乾いた地面に反響して、カランコロンと音色が鳴る。その度に歩く気も湧き、自然と速度が速まった。
―――見上げた先には、からりと晴れたお天道様。夏も本番を迎えていた。





下駄と黒猫





強い日差しに目を細めながら中庭に回ると、縁側に見知った人を発見した。唇を一舐めし湿らせて口開く。

「源さーん!」
「‥‥うん?」

立ち去ろうとしていた姿は、私の呼び掛けに立ち止まり外へと顔を向ける。手を振り答えると、柔らかい笑顔が戻ってきた。

「今日和、源さん」

触発されて思わず浮かべた笑みをそのままに挨拶をすると、おいでおいでと手で呼ばれた。自身を指差せば頷かれる。
何の用事だろうか、と思案しながら片足の下駄を先に脱いで上がると、腰に腕が回り支えてくれた。身体を委ねもう片方も木の床を踏みしめる。

「はぁー‥‥足裏気持ちいー」
「下駄を履いていても、外を歩くとどうしても暑いからね。この時期は特に」
「冬は冬で寒いし。もー、やになっちゃう」
「その割には随分楽しそうに歩いてたじゃないか」

指摘され一瞬硬直するも、事実そうなのだからと認め軽く首を縦に振る。
‥‥これ以上猛暑について愚痴を溢しても、源さんの事だ、全部流されてしまうだろう。悟った私はその思考を誤魔化すように、逞しい腕に抱き付く。

「さぁ、冷たいお茶を飲もうか」

頭を撫でる包み込むような掌に安堵を覚えながら、返事の代わりに身体をすり寄せた。



(いつも下駄を履いて欲しいと言ったら、君は笑うかい?)
(君を捕まえるのは、野良猫を捕えるよりも困難なんだよ)




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うおー!!源さんの大人っぽい雰囲気にクラクラです!!
君を捕まえるのは〜に、源さんの切ない想いをかんじます!!
響様、素敵な作品をありがとうございました!!

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