作品集

□1:傘を閉じて見えたのは
1ページ/1ページ

この季節特有の急な夕立に降られて、手にしていた傘を広げる。


頭上に重く垂れ込めた空はまるで暗鬱とした自分の心そのもので、近藤は知らず自嘲の笑みをもらした。



「一体何をしてるんだろうな、俺は…」


独り言のように呟き、また鈍色の空を見上げる。望む答えが得られようはずもないと分かっていて、それでも。


やがて近藤は深い溜め息を一つ吐き出し、往来を角に折れた。と、不意に飛び込んできた聞き慣れた声。



「――近藤さん?
近藤さんじゃないですか?」
「桜庭くん?きみの方こそこんな所でどうしたんだい?」


自然に笑みを作り声のする方に近付けば、商家の軒先から顔を出した鈴花が控えめに微笑む。
その手の中には大事そうに抱えられた風呂敷包みが、一つ。


「私は土方さんのお使いで木屋町に用があって…。近藤さんは黒谷からの帰りですか?」
「うん、まぁそんなとこ。それよりさぁ桜庭くん、きみもしかして傘持ってなかったりする?」


幾分悪戯っぽくそう問いかけると目前の鈴花がうぅ、と唸る。よくよく見ればその髪は突然降り出した雨に濡れたのか、ところどころ水滴が跳ねていた。


「それが…昼間はあんなにいいお天気だったからまさか雨が降るとは思わなくて…」
「で、傘も持たずに屯所を出たってわけか」
「その通りです」


すっかりしょげ返ってしまった鈴花。たかだか傘の一つでそこまで落ち込まなくても、と思いながら近藤はその肩をつと引き寄せる。
ハッとこちらを見上げる鈴花に、笑って答えた。


「なら一緒に帰ろうか。ちょっと狭いけど、相合い傘で」
「はっ?私と近藤さんが、ですか?」
「そう、きみと俺で、ね。ダメかい?」
「ダメじゃ、ないですけど…」


すっかり萎縮してしまった鈴花は言われるままに近藤の傘の中に入った。不意に近付く二人の距離。

耳の先まで赤く染まった鈴花を、近藤は純粋に可愛いと思った。



「…たまには雨もいいもんだねぇ」
「…え?近藤さん、今何か言いました?」
「いや、何でもないよ」


つい先ほどまではあんなに晴れない気分だったのに。たったこれしきのことで舞い上がってしまっている自分が可笑しい。クスクス笑う近藤から鈴花が視線を逸らして。そして次の瞬間、息をのんだ。



「―――ねぇ、近藤さん、あれ…!」
「――ん?どうかしたかい桜庭くん?」


首を巡らせそちらを見遣れば鈴花の視線の先、雨雲の切れ間に七色の虹がかかっていた。あれだけ降り続いていた雨も徐々に止み、待ちかねたかのようにお天道様が顔を出す。


「すっかり晴れちゃいましたね」
「ホントホント。俺としてはあともう少しきみとこうしていたかったのにさ」
「もう。近藤さんのバカ」


そう言って笑う鈴花に、近藤はどこか救われたような気分になって空を見上げた。


一人で見上げたそれとは違う、明るい、希望に満ちた空を―――――




(雲間から指す一筋の光と、きみの笑顔)






******
近鈴小説を書いていただきました!!
お互いに意識しまくりな近鈴最高です!!
しっとりした雨のシチュエーションも二人に合いますねVv
ゆつきさん素敵な小説をありがとうございました!!

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ