Original

□羨望
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バターーッン
突然扉が開く

一斉に振り向くパーティー参加者

外のまぶしい光で一瞬わからなかったが
そこにはみすぼらしい格好をした一人の男が立っていた

「陸!!」
「……!?」
「ひっさしぶりだねっ」
ケラケラと嬉しそうに男は笑いながら近づいてきた

「お知り合いですか?」
空が不思議そうに尋ねてくる

しばらく考えて
「…いや」
俺は否定の言葉を発した

「なーに言ってんだよ、俺たち幼なじみじゃん?親友だったじゃん?」
男はなお近くに寄ってきた

そう、この男はまぎれもなく俺の知り合いだった

もう10年以上も前だが
幼少期を一緒に過ごした幼なじみだ

突然の再会にもかかわらず動揺しないのには自分でもびっくりする


「…何故お前がここにいる?関係者以外は立入禁止のはずだが」

視線はみんな俺たちにそそがれている

誰だ、あいつは
社長の知り合いか?
いや、まさか

「俺も立派な関係者だぜ。ほら」
そう言って名刺をひらひらと俺に見せてくる


そこにはこう書いてあった
−旅人−

旅人?何だよ旅人って

すると小さい頃海が言っていた言葉が頭をよぎった
「俺、将来はいろんなとこ旅して旅行記を書く人になりたいんだ!」

こいつ本気だったのか

それにしても何故、自動車会社の飛躍祈願パーティーに旅人を招く必要がある?

…そうか、車で行ける色々なスポットを紹介できるように、その道のスペシャリストを呼ぶって先生が言ってたな
旅人ってその道のスペシャリストなのか?


「俺、夢叶えたぜ!って言っても自分で勝手にやってるだけだけどな〜」

「………」
「陸?」


「お前こんなお遊びみたいなことやってんのか」

「お遊びって何だよ」
急に似つかわしくない厳しい顔になる


「こんなお金にもならない、名誉にもならない仕事してどうなるってんだよ?」

「…お金とか名誉とか、俺がほしいのはそんなもんじゃないんだ。
自分のすきなことをやれる喜び、その楽しさを人に伝えて楽しんでもらえる喜び。それがあるだけで十分だ。」
そう言い海はニッと笑顔を向けた

「陸は満足してるの?」
「今の現状に」


「…ふっ」
俺は思わず笑みをもらした

「変わってないな、海」
自分でも驚くくらい冷たい声が出る

「昔っから
たいした知識も技量もないくせに
後先考えず、周りの状況も何も考えず、無謀に自分のやりたいことに向かって突っ走る」


「………」

「俺はお前のそういうところがっっ」
大声を張り上げる
パーティーホールは静まり返っていた


「……………ずっと、うらやましかったよ」

「!!…陸………」


「あ〜あ。地位も名誉もお金も手に入れたのに、なんか楽しくねぇんだよな」

「俺が手に入れた大事なものといったら婚約者の空だけだ」
空の肩に手をやる

「陸さん…」

陸は勢いよく周りを振り返った
「てなわけで、今日かぎりで俺社長辞めますから」

辺りがざわつく

しかし決心を固めた俺には何も動揺はなかった


「連れてってくれるんだろ?」
海に話しかける

「あぁ」
海も力強くうなづく


「昔約束したじゃんか」

「俺が旅人になるって言ったら、俺も連れてってくれって」


窓から差し込むこぼれ日が心地好かった


さあ、旅に出よう
人生を楽しむ終わりなき旅に

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