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□丸くなっているんだきっと
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ホテルでのバイト
まだ始めて2ヶ月
まだまだ新人だ
でも世話係の先輩がとっても優しい
櫻井さんといって、わからないことを丁寧に教えてくれるし
ミスをしたら、ときには厳しく注意し、ときには優しくフォローしてくれる
いつもあたしが困っているとき声をかけてくれる
仕事もできるし人望も厚い
すごくすごく憧れだった
そんな櫻井さんは目を丸くする癖がある
「え、俺が?」とか「へぇ!」とか
そんなところも非常にかわいらしい
ある日の披露宴
いつもの通り仕事をして、いつもの通り余興が盛り上がっていた
そんなとき、酒臭いおじさんが近づいてきた
「ねぇちゃんもかしこまってねぇで一緒に盛り上がろうぜぇ」
「ちょっ」
肩を組まれた、太ももを触られる
暗い余興の中、誰も気づかない
どうしよう…
ゾワッと悪寒が走る
「お客様、困ります」
そのお客の後ろからぬっと櫻井さんが出てきた
どうして
どうしていつも櫻井さんなんだろう
守るようにあたしの前に立つ
「はぁ!?俺は楽しくやろうって言ってるだけだぜ?」
「私たちはホテルマン。披露宴でサービスをするのがお仕事ですが、例えお客さまでもそういった行為は考えられません」
明らかに怒りがこもった声
目の前に
大きな背中が見える
必死な形相の横顔が見える
「んだお前客に向かって!」
「どうされました?」
騒ぎを聞きつけキャプテンがやってきた
櫻井さんが事情を説明する
「後は俺が収拾するから、裏行って落ちつかしてきて」
「…はい」
櫻井さんと2人、部屋の外の廊下に出る
「くそっ!!」
「……………」
「大丈夫?」顔をのぞき込まれる
全身がわずかに震える
「櫻井さん」
目に涙がたまる
それを見て、焦る櫻井さん
「大丈夫、大丈夫だからな。落ち着くまで俺、ずっといるから」
「櫻井さん…」
「ん?」優しい相づち
「…好きです」
あたしはくるりと背中を向け
走りもせず、振り返りもせず、とにかく離れようと廊下を歩いた
櫻井さんの反応はわからない
でもいつもの通り、目が丸くなっているんだきっと