Original

□わずかな微笑み
1ページ/4ページ

彼はよく笑う人だった
友達に囲まれて楽しそうに

あたしは彼の笑顔に惚れたんだ

でも、友達といるときの満面の笑顔じゃなくて


あの時に1度だけ見た


もっと

切なくて
悲しくて
でも愛おしそうな

あの笑顔に





「ギャハハハハッともやん、もっかいやって!」


「うるさ、山内」
「ほんといつも元気だよねー」


同じクラスの山内蒼甫

お調子者で、声がでかくて、いつも友達とさわいでる


あたしは山内のことなんてただのうるさいクラスメイトとしか思ってなかった

そう、あの日までは


山内には幼なじみの女の子がいた
隣のクラスの癒し系女子、桜美紀

仲が良くて、隣のクラスだけど一緒にいるのをけっこう見かける

でも2人には甘い雰囲気はまったくなくて
付き合ってる噂も聞いたことがない

あたしもあの2人は似合わないな、だなんて思ってた



ある日の部活終わり
あたしは体操着を教室に置きっぱなしなことに気づいた


夕日で紅く照らされた学校の中を
教室に向かって歩く


すると隣のクラスの前の廊下に

山内と桜美紀がいた


ん?放課後に2人きり?もしかして?

とあたしは思ったけど、その予想は的外れだった


「今度、りょうくんと水族館行くの」
「そか、お前前から行きたがってたもんなぁよかったじゃん」


なんだ、桜美紀彼氏いるんじゃん


「あ、そろそろ行かなきゃ、またね!」
「おー!」


桜美紀に元気に手を振る後ろ姿

左の部分だけ夕焼けの光があたってまぶしい


あたしは何気なしに
通りすがりに山内の顔を盗み見た


その瞬間、心臓が跳ね上がる


山内はてっきりいつもの満面の笑みでもしてるんだろうと思ってた

けど

口元はわずかしかゆるんでなくて

どこか切なくて悲しそうで
でも愛おしそうに
優しい目をして静かに笑っていた




好きなんだ




桜美紀のこと





こんな顔見れば誰だってわかる


でも初めて見た
2人一緒のときはよく見かけるけど、こんな顔はしてない




「はっ何だよ速水」
山内があたしに気づいて声をかける

もう愛おしそうな笑みは消えていた

「あ、いや。教室に体操着忘れて…」


あたしの心臓はまだドクドクいってる

自分の右半分が
山内の左半分が、紅く光ってまぶしい


あたしは山内の

満面の笑顔でもなく
自分に向けられてる笑顔でさえないのに


桜美紀を愛おしそうに見る笑顔に
あたしは惚れたのだった
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ