-Novel1-
□三日月の朧夢〜Rabbit Flight〜
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夕暮れ時。真っ赤な太陽は、朱色の空に包まれて、綺麗な筋雲を纏っていた。明日もきっと良い天気になるだろう。誰もが家路につく、笑顔と楽しさの中。そこには、止まった時間が流れていた。
「ママーぁ!今日の晩御飯なぁに?」
「今日は、美味しいカレーよ」
「やったぁ!」
通り過ぎていく、親子の会話。そんな幸せそうな時間が動く中で、ただ一人…
「……」
暗く表情を落とした、小さな少年が居た。
「…帰りたくないな…。もう、あんな家なんて…今更…」
少年の言葉と共に、キィッと、金属音が響いた。短く揺れる影は、細長い鎖を映していた。
陽の当たる公園。ブランコに座る少年。誰も居なくなって、流れるだけの時間。握り締める、少し錆び付いた…携帯電話。
「…これからどうしようかな…何も考えてなかった」
「…どうするんです?」
「えっ…?」
不意に聞こえた声。しかし、周りには誰も居ない。
「気のせいかな…?」
少年がまた俯くと。
「おや、気付いていないんですね、自分の存在に。まぁ…良いでしょう。時間は、たっぷりありますから」
「…っ、誰?」
今度は、ちゃんとした声が少年に聞こえたらしく、辺りを見回す。