Zack
□眠り姫
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「…はぁ〜」
それは、数度目かのため息で漸く落ち着きを取り戻すと、胸の高鳴りだけが煩い位に耳に残った。
…危うく理性が吹っ飛ぶトコだった…。
意地っ張りで気が強いクセに、時折見せる弱さ。
…そのギャップが男心を擽るってヤツ?
「…俺が狼だったら、お前はとっくに腹ン中、だな」
再び視線を戻すと独りごちる。
そろそろ気付けよ…。
「ん〜、よく寝たぁ〜」
イイ気なもんだな…人の気も知らないで…。
「はぁ…」
「…なによ?」
「…なんでもない」
「???」
頭に疑問符が浮かんだカイの顔。
俺は大きく腰をずらすと深々と身を沈め、脱力した。
…疲れた。
「ね、今日はもう帰れるの?」
「…何で?」
「どうせこの後暇なんでしょ?呑みに行こうよ」
さっきの疲れた顔は何処へやら…眼を輝かせたカイが覗き込んできた。
「…あのさ、よりによって今日“暇?”とか聞かないでくれる?」
「でも、暇なんでしょ?」
「──嫌な奴…」
そう言うも、口元からは笑みが零れ出た。
そんな俺をこいつが見逃す筈も無く、それに気付いたカイが、すかさず口を挟んできた。
「嬉しいクセに」
言葉と共に投げて寄越した、そのイタズラな笑みは、治まり掛けてた感情を呼び起こし、刺激する。
…こいつ分かってやってんのか?…本気で襲うぞ?
「じゃあ噴水の前で待ってて」
「…は?この寒い中、何でわざわざそこな訳?」
「女の子を待つのは男の役目、でしょ?」
「…その偏見は何処から仕入れてくんだよ」
その言葉に、カイはゆっくり立ち上がってにっこり笑って見せると、細い指先を俺の鼻先に押し付けた。
「寒さに悴むザックスが見たいな〜って」
…おいおい。どんだけ俺を待たせる気だよ…
「酷いって言葉は、お前の為にある様な気がする…」
肩を落として項垂れてると、不意に顔が近づいて来た。