Zack
□雨上がりSt.Valentine…
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胸に残る貴方の温もりが忘れられなかった。
貴方がくれた無償の優しさに、いつしか安らぎを感じていた。
少しの間逢えなかっただけなのに、貴方の声を切望している自分がいた。
貴方に会えるという日常。
他愛ない会話。
一緒に馬鹿やって笑う。
その当たり前が、あたしを支えてくれていたんだと気付いた時、逢いたいという想いは、次逢う時どんな顔をすればいいのだろうという、戸惑いの気持ちに変わっていた。
あたしは、もうダメかもしれない…
ポッ
ポッ…
ザアアァァ…
「あっちゃ〜、やっぱ降って来ちゃったか…」
就業時間を遥かに過ぎた頃、照明の落ちた正面玄関で目の前のどしゃ降りに立ち往生するザックス。
鼻先を掠める滴に参ったな、と頭を掻いた。
天気予報は、夜半から明日の朝に掛けて雨の降る確率30%…
30%に負けた…残業にならなきゃ濡れずに帰れたのに…と、苦笑い。
勢いを増す雨粒に、少しでも小雨になってくれればと暫く待ってはみたものの…雨足は弱くなる処か激しさを増す一方。
わざわざ傘買うなんて勿体ないし…よし、駅まで走るか。と、片手で黒髪を庇うと意を決して飛び出した。
「──ザックス?」
踏み出して数歩。背後から聞こえたその声に足を止めると、勢い余った身体が大きく前にのめった。
「うわっ…とッ!」
「あ!危な──」
「ッとと…」
大きく腕を振ってバランスを取る。
よろけた拍子に片足が水溜まりに浸かってしまったが、最悪転倒は避ける事ができた。
鬱陶しく視界を遮る大粒の雨。振り返った先に暫く見なかった親しい友人の姿を捉えると、ザックスは嬉しそうに頬を緩ませた。