Zack

□木枯らしに馳せる想い
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箒星を指差し
「あれは彗星なんだよ」と眼を細めるお前。
ふと見たその横顔に、俺は心を奪われた。

街灯に照らされ歩く小道。
風に煽られ舞う木の葉。

突然吹いたつむじ風がそれを引き連れ視界を阻み、お前の背中を隠した。

「カイッ…!」
「…?」

振り向く仕草がスローモーションを描く。

それは一瞬…。
たった一瞬の事なのに、その瞬間俺はどうしようもない不安に駆られた。

「…ザックス?」

手を伸ばしたまま固まる俺。お前は軽く首を傾げると、仄かに笑みを洩らした。
そのまま何事も無かったかのように前を行くお前。
そんなお前をこの腕に抱き留めたいと、俺は何度思っただろうか…。

抱きしめたいのは好きだから
抱きしめたいのは愛しているから
抱きしめたいのは、不安だから

無意識に伸ばした腕。
それを掻き消すように伸ばした腕。
追い掛ける歩幅が自ずと広がった。

「大丈夫だよ」
「…!?」

「あたしは此処にいるから」

不意に向けられた暖かい眼差し。
お前はそんな今の弱い俺を包み込むように眼を細めると、届かずに空を切った俺の腕に、自身の腕を絡ませた。

「もうすぐ冬が来るんだね…」

そう言って冷えた指先を擦り合わせ、縮こまる。
そんなコイツと歩幅を合わせ、小さく踏み出すはじめの一歩。

普段とは違う歩幅。
普段とは異なる歩調。

たったそれだけ…たったそれだけの事なのに、お前といられる今この時を、幸せだと感じる。

「あと10日もすれば、クリスマスツリーが店頭に並ぶんだろうな…」
「もうそんな時期?」

「その前に、ハロウィンがあるけどね」
「早いな、もう一年経つのか…」

「…一年?」
「お前と初めて会ってから、さ…」

「・・・・・」

この一年、お前が教えてくれたことは数えきれなくて…正直、何と聞かれたら困る。

「あぁ…大人げなくヘリで大暴れしたあの時ね?」
「それは二回目だろ?…初めて会ったのは…」

「アンジールに怒られてた時?」
「…変なトコだけしっかり覚えてんのな」

負けず嫌いで不器用で、強がりで…

「…忘れるわけないじゃん」

たけど、寂しがり屋。

そんなお前に会って学んだ事…それを敢えて言うなら"時間の経過"
それはイコール"待つ"という事。

正直じれったいけど、素直じゃないお前の少し低めのその声で、いつか気持ちが聞ければいい。
聞けなくても、俺が安心できればいい。
でも、確信のない未来への不安は大きい。

「知ってる」
「え!?」

「わかってる」

だから試してみたくなる。
お前の気持ちが知りたくて。

「・・・・・」

無言で俯くお前。腕にかかる温もりが不意に離れた。
…今はいい。
手を伸ばせばそこにいる。
引き戻せる。
触れられる。
抱きしめられる──

しかし、それができない時の不安と言ったら…例えようがない。

今、お前は何処に居るのだろうか…
また一人で無茶をしてないだろうか
怪我をしてないだろうか
寂しくて、震えていないだろうか…

考えるのはお前の事。
想うはお前只一人。

「…ばかじゃん?」
「はいはい」

「…何よその顔」
「ま、いいじゃないの」

言葉に隠れる偽りと真実。

うわべの安心はいらない。言葉の安心はいらない。
ただ、お前に傍にいて欲しい。
ただ…お前が欲しい。



いつか聞かせてくれるよな?
お前の気持ちを…





2008.10.28
diaryで回答したバトンの加筆修正版です。
 

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