Zack

□Kiss&stars
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煌びやかに街を彩るネオン。
幸せそうに並んで歩く恋人たち。
そんなLOVELESS通りを美しく演出する粉雪。
その、照らされ瞬く無数の粒に手を伸ばすと、湿度を含んだ白い息が、あたしの視界を薄く覆った。



「ふぇっ…ぷしッ!」
「…で、あんたは何がしたいわけ?」

「ふぇ?」
「って、バカ口開けてコッチ向くんじゃないわよ!風邪が伝染る!」

出掛かったくしゃみを堪えながら、ずずず…と鼻水を啜るザックス。その顔にハンカチを押し付けてやると、申し訳なさそうにそれを受け取った。

「なんとかは風邪ひかないって言うけど、あんたは例外みたいだね」
「…もうちょっと労ってくれても良くない?」

「なら、真っ直ぐ家帰れ」
「X'masに俺独りで帰れってか」

「風邪っ引きが何を言う」

薄く涙を貯めながら、またも盛大なくしゃみをぶっぱなすザックス。そういうのは鼻水啜りながら言う台詞じゃないだろ!ったく聞いて呆れます。任務の延長線とは言え、みぞれ混じりの川に飛び込むってあんた何考えてるんですか!本人は頑なに否定してますが、あんたそれ絶対熱あるから!つーか、そんなにまでしてあたしと一緒に帰る意味が、何処にあると言うんですか!

「こんなの大したことな……っくしょッ!!」
「赤い顔して背中丸めてる奴が何言ってんの!」

「ゔー…」

認めたくないのか最早それは意地なのか…眉を潜め、小さく唸るザックス。チラリと覗いたその瞳が潤んで見えるのは、やはり熱があるのだろう…普段病気しない奴が風邪引いたんだ、そうとう辛いに決まってる。

「…お人好しにも程があると思いますけど?」
「あ、知ってた?」

「レノが爆笑してたわよ」
「そっか…カイに隠し事はできないな」

「大いにしてくださって結構。関係ないし」
「ま、今回は仕方なかったって事で許してよ」

そうとう辛いのか、そう言って力無く笑うザックス。
その顔に、チクリと胸を刺す痛み。…思わず眼を逸らしてしまった。

「んな顔すんなって…」

言いながら頬を撫でる優しい手は、手袋越しにも熱いのが分かる。

「…いつか足元すくわれるから」
「…かもな」

一瞬の沈黙をかきけすように、無言で見上げた空。
降り注ぐ粉雪は、次第にその量を増やしていった。





「…なに?」

不意に触れた温もり。
寒さに耐えきれず、擦り合わせた手に暖かい息を吹きかけてると、伸びて来た革手袋がそれを阻んだ。

手のひらと、あたしの間に埋まる黒髪。
一際白い息がそこから洩れた。
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