Cloud Strife
□蒼穹catalysis
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「うっわー…。傷だらけじゃん」
光沢を保ちながらも傷だらけのボディ。その側面に指を這わせて振り向くと、いつも以上に暗いクラウドと眼があった。
珍しく呼び出されて向かった郊外。
仕事の合間をぬって少しずつチューンアップしたフェンリルは、コンパウンドでは消せない傷を無数につけ、ブレーキオイルを滴らせた状態でやってきた。
「また派手にやったわねぇ〜。デリバリーって危険業種、だっけ?」
その言葉に顔を背け、暗い表情のクラウド。
平静を保とうと装うその顔が、予想通りの言葉を口にした。
「…どうにかならないか?」
「──う〜ん…」
それは、予想通りとはいえ即答し兼ねる難題。
誤魔化すように車体の下を覗き込むと、蓄積された地表の熱が、一瞬にして大粒の汗を滲ませた。
記録的猛暑となる今夏。
容赦なく照りつける太陽は、地平線まで続く荒野を揺らめかせ、建設ラッシュを迎えたエッジからひっきりなしに聞こえる金属音が、それを助長させるかのように耳障りな音をたてていた。
メテオ災害から立ち直りつつあるミッドガルは、今や復興の真っ只中。クラウド達のお陰で星痕症候群の恐怖は消えたものの、後先考えずにレノが壊したハイウェイや、骨組みとはいえ壊れたビルの被害は甚大だ。
増えた瓦礫は資材と呼ぶには程遠く、頭を抱える日々。
鉄屑はあっても、それを加工する工場が足りないのだ。
正直、此処に来る暇も惜しい程、今のあたしはそれの復旧に追われていた。
けれど、クラウドたちには返しても返しきれない借りがある。そう思っているからこそ、タークスとしての任務の傍ら立ち寄った先々で部品を収集、その手助けをしてきた。
「直せるには直せると思うんだけど…。部品が、なぁ…」
「そうか…。無理を言ってすまない」
そう言って、フェンリルに跨がるクラウド。
あたしは嘆息と共にグリップを握るその手を阻むと、取り出した携帯を耳に宛がった。
状況がどうであれ、フェンリルをこのまま帰す訳にはいかない。クラウドは口にしないが、フェンリルがこうなった原因は此方側にあるのだ。
「…とりあえず場所を確保したわ。移動したいんだけどブレーキはどう?全然効かないって訳じゃないんでしょ?」
「いや…」
「いや。じゃ、分かりませんッ」
「…リアは生きてる」
「そ。なら、何とかなるわね。まぁ、最悪エンブレでロックして足ブレーキって手もあるし…」
なんとかなるでしょ。そう付け足して自分のバイクに跨がると、その後ろで申し訳なさそうに眉間を寄せるクラウド。
…二度も星を救ったヒーローには見えません。
「ん、もう。暗いなぁ〜。元はと言えば神羅(ウチ)が悪いんだし、クラウドが気にする事なんてないでしょ」
「だが…」
「神羅はそこまで落ちぶれちゃいませんッ」
誇らしげに胸を張り、笑みを投げ付けてやる。
苦笑うクラウドと眼があった。
「…カイは強いな」
「そう?」
「いつも前向きで…救われる」
「そ?」
「そういう所──」
「んー」
「ザックスと似てる」
「………そう…?」
思いがけない名前に乱れた心音。適当に相づちをうっていたあたしは平常心を保とうと呼吸に気をつけるが、キーを回す手が一瞬躊躇したのは失敗だった。
誤魔化すように握り直したグラブ。
その手で掴んだグリップを目一杯捻ると、空吹かしたエンジンが轟音と共に唸りをあげた。
「…さて、と。んじゃ、行きますか…」