Zack

□雨上がりSt.Valentine…
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「カイ!」
「や。」

その声に片手を上げて返すカイ。
ザックスは直ぐ様踵を返すと、先程居た玄関へと駆け込んだ。

「久しぶり!暫く見ないと思ったら遠征に出てたんだって?」
「うん。今回はちょっと長引いちゃった」

「タークスも大変だな」

屈託の無い笑み。
カイはその姿に口元を緩ませると、黒髪から滴る雫に手を伸ばした。

「びしょ濡れ」

言ってくすりと笑う。

「水も滴るいい男って言うじゃない」
「…それ、自分で言う?」

ザックスはその言葉に大袈裟に肩を落としてみせると、濡れた前髪をかき上げ苦笑いを零した。

「久しぶりに会ったってのに、相変わらずだな?」
「…あたしにどんな言葉を期待してたのさ」

「俺に会えなくて寂しかったんじゃない?」
「…その自信、へし折ってやりたいね」

言いながら自分より背の高い黒髪のソルジャーに歩み寄ると、カイは徐にポケットからハンカチを取り出した。

「素直じゃないな…ま、カイの性格じゃ、それも仕方ないかな?」
「……よくご存知で」

「まぁね、付き合い長いし。そろそろ慣れ──ッ?!」

不意にあてられた柔らかい感触。
それが頬を伝う水滴に触れると、突然の行動に身体を固まらせ、言葉を失った。

「…風邪、ひいちゃう」

アスファルトを打ち付ける耳障りな雨音。
放った言葉がその喧騒に掻き消されると、カイは無言で見詰めるその鮮やかな瞳から眼を逸らした。

瞳の先に雨を齎す黒い雲。

それが天を覆い、どんよりと垂れ込める。



「雨、止みそうにないね…」
「…あ、あぁ──」

静寂を守るような穏やかな口振り。
しかし、どことなく淋しげなカイ。
その、今にも消え入りそうなか細い声に、いつもと違う雰囲気を感じ取ったザックス。あてられた掌を自身の手で覆うと、その顔をじっと見詰めた。
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