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□Training
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(TOA:シンク)



「隙ありっ!」
「…っ!」


スパァン!と気持ち良く決まった攻撃に宙を舞った仮面を受け止めて立つ私を、鍛錬場の床に倒れた身体の上体を起こしながらそいつは一丁前に鋭く睨み上げた。
すぐに上体だけとはいえ起き上げれるという事は、どうやら受け身はしっかりと取ったらしい。感心感心。と、考えて満足感に浸っていると。


「っ〜…返せよっ!」


倒された羞恥と悔しさに歪めた顔を晒してそう叫ぶ。
私はくるくると仮面を弄ぶ手を止めずににやりと笑って見せた。明らかな挑発に更に視線がきつくなる。


「力尽くで取り返せばいいじゃないか。あ、今のシンクじゃ無理か?」
「――っ、馬鹿にするな!」
「おっと」


いいバネだ。
パッと立ち上がったと思えば、そのまま勢いを殺さずに低い体勢で距離を詰めてきた。その手が狙うものは明らかで、攻撃を避けながらわざとギリギリ届かない位置に仮面を持った手を引く。
負けじと伸びて来る手。


「っ…このっ!返せっ!」
「ほらほら、そんなんじゃ取り返せないぞ〜?」
「大人げないよ!」
「手加減して欲しいのか?」
「そんなもの、要るか!」
「ははっ。上等じゃないか。その意気だその意気」


右、かと思えば左から。時には上や下からも繰り出される拳や蹴りの数々。
技のレパートリーの増え方は上々のようだ。時々音素を乗せて素早さと威力を上げたものも混ぜるところといい、その成長振りは少し目を見張るものがある。
おまけに学習能力もある。教えている立場からすれば何とも頼もしい事だろう。気分は良い訳で、やはり満足しながら私は顔面直撃コースと実に容赦のない一撃をぱしりと手で止めた。
避け続けていた私がまともに受け止めるとは思っていなかったのだろう。一瞬の戸惑いに生まれた隙を見逃さず、止まった足をひょいっと引っ掛けるといとも簡単にシンクは床に転がった。
それもすってんころり、という具合に。そんな転がされ方、転がった本人からすれば実に屈辱的に違いない。


「残念、惜しい」
「…っこ、この…!余裕、ぶって…今に…!」
「言葉になってないぞ、シンク」
「う、るさ…!」


特に、プライドの高いシンクはその表れ方が顕著であった。
最高潮の羞恥に顔を真っ赤にして噛み付くも、息切れが激しくて言葉にならず。笑った私に歯噛みしながら、「くそっ!」と悪態を吐いてそのままシンクはふいと顔を横に背けた。
軽く喉の奥で笑いながら、私は胸を上下させて床に横になる隣に腰を下ろして上から悔しそうな顔を覗き込むようにして見下ろした。


「そう慌てるなって。慌てなくてもお前ならすぐに強くなるから」
「……ふ、ん。そんなお世辞なんか」
「世辞なんか意味ないもの言わないよ。本当だって。呑み込みが早いから、教え甲斐があって私も楽しいよ」


捻くれた返答に返せば、ちらりと綺麗な色をした目が私を窺う様に向く。
少し寄った眉は不安そうでもあり、見捨てられるのを恐れる様でもあり。


「……本当に?」


恐々、という風に言って返事を待つように注がれる視線に私は口端を持ち上げた。


「うん」
「…あっそ」


あっさりと頷いた私に、もう用はないとばかりにまたふいと顔を逸らす。
そうすると、普段髪に隠れた耳元がちらりと見えるようになる。赤く染まった耳を見て、私は湧き上がる笑いを押し込むように自分の脚に肘を着いて、手の甲に口元を押し付けた。



Training



「シンクって、実は可愛い奴だよなぁ…」
「…何か言った?」
「ううん、何でも」





・連載の過去にありそうな話。多分シンクは生まれてすぐ。
ヒロインに対してツンデレ。きっとその内デレが多くなる(笑)







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