Short

□ペルソナの微笑
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TOA→TOW2
※黒ガイ風味



例えば彼女にとって彼は親愛なる赤の他人で。
例えば彼にとって彼女は見ず知らずの他人で。


ああ今日もだ。朝の挨拶から始まって、見事な、それはもう綺麗だと手放しで称賛出来る笑顔を彼女は皆に向けている。
俺はそれを受ける内の一人で、でも、その中にちょっとした違和感を受ける、この船の中では多分一握りの人間なんだろう。

「キミと俺は、どこかで会った事があるかい?」
「いいや?この船で会ったのが初めてだろう?」

ああそうだ、俺と彼女はお互いに初対面の人間だ。否、それは顔を合わせて会話をする今では「だった」の方が表現としては適切だろう。
海色の瞳を真っ直ぐに、緩やかに波打つ海面に向けて佇む。それが彼女の普段暇な時の過ごし方なのだと俺が知ったのはつい最近の事だ。

ディセンダーと呼ばれる人物が彼女をこの船に連れて来たのは一月程前の事だっただろうか。魔物の討伐依頼にサンゴの森に赴いた際、その多さに手古摺っていた所に何処からともなく加勢してくれたのが彼女らしい。行く所がなく困っていたというので、多くの船員がそうであるように労働を対価に彼女もこの船に乗る一員になったのだ。

彼女は一言で言うならば美しい女性だった。そしてとても腕の立つ人物で、有能な人材が子分として増えた事を幼い船長は大いに喜んでいたものだ。しかも人当たりも良く、話が良く分かり、頼り甲斐もある。そんな好人物ならば曲者揃いの船員達にもすぐに気に入られるのは自然の成り行きだったのだろう。
ギルドに寄せられる依頼をこなす傍ら、彼女は良く海を眺めに甲板に赴く。そして海を見るのと同じように時折思い出したように空を見上げて寂しそうに微笑うのだ。時折それに混じる赤毛の猟師がある日「あんたは空が好きなのか嫌いなのかよく分かんねぇなぁ」と零した時、「好きだよ。ただ時折酷く残酷な事をしてくれるものだとは思うけどね」と余計困惑させるような返答をしていたのをたまたま通りかかった俺は聞いた。

「…やっぱり、この船で会ったのが初めてだよ…な?」
「ああそうだ。残念ながら、私は生まれてこの方グランマニエ皇国に赴いた事は一度もないんだ」
「前もそれを言ってたな。そういえば、キミの生まれは何処なんだい?」

尋ねると、彼女の表情が変わる。相変わらず刻みこまれたような穏やかな微笑の中に巧妙に隠される、恐らくは彼女の本当の表情なんだろうと俺には思えるそれが。
まるで俺が問答の内容を間違えたようなそんな表情を上手に笑顔で隠して、彼女は海に目を遣ったまま何気なく見える仕草で答えた。

「名もない島、かな」
「…そうか」

まともに答えるつもりはないんだろうと何となく予想が付いていた俺は深く追求しない。今の俺はきっと彼女と酷似しているだろう薄っぺらい笑みを浮かべているんだろうなと思う。
そんな俺をほらまた、彼女は一瞥してほんの僅か見事な笑みを歪ませる。一歩俺が何気なく近付けば、彼女は同じ距離の分だけ遠ざかる。まるでそれが当然のように――既に沁み込んだ習慣のように。

「俺は一体、キミの知っている誰に似ているんだろうな?」

なあ俺は知っているんだよ、キミの俺を見る瞳に宿る苦悩を。





(俺の一言でこうも簡単に崩れる仮面に気分が酷く高揚するなんてキミは知らないんだろう)




・TOA夢主の→マイソロ2パラレル。黒ガイ風味でお届致しました←
ガイについて色々と知っている風なヒロインと、ヒロインの事を何も知らないガイが彼女について色々と探るお話。本来ガイはとても鋭い人物の筈なので。
何となくの思いつきで何となくの気分のまま書いた中途半端なブツですみませんorz
でもやってみたかったんです←

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