それは全ての

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幼少期編
姉さんの方が強かった日











思い出してしまうと、知らなかったころには戻れないらしい。
何故か。
私の父と母はこの人たちではない。
何故か。
私の友達は幼稚園にはいない。
何故か。
私の生きた世界はここじゃない。
何故か。
17歳の脳みそでは無邪気になれない。

自分の家族では無い人達と暮らすということは思ったよりもストレスが溜まると知った。
そのために、前世の知識を生かして出来るだけ一人で何でもやるようにした。

「きょうからはみがきもおかおもひとりであらいたいので、だいがほしいです。」

「まぁ、あおいちゃん!偉いわねぇ。明日、買ってくるわね。」



「おきがえもできます。ふくもたためます。」

「あおいちゃんは何でも一人で出来ちゃうのね…。今度はママにも手伝わせてね。」


母親面をしないで。
私のお母さんは一人だけだもの。
一緒の空間にいると家族ごっこをしているようで苛々する。
私の世界はここじゃないのに。
けれど、あそこにはもう戻れない。
戻りたいのに…!
ここにはいたくないのに…!
家にいるだけで息が詰まりそうになる。
出来るだけ早く、出来るだけ長く、幼稚園に居たい。





(あおいちゃんっていつもいらいらしてるよね)
(みんなのことにらんでるしねー)

が、しかし。幼稚園は幼稚園でストレス溜まる。
あと目つきが悪いのは昔からです、ほっといてー。
未だ幼稚園にも馴染めずに部屋で1人読書をしていると。



「あおいちゃーん!きょーはしあわせのおうじだよー!」


来た。
私が泣いてから、よく姉が来るようになった。しかも、読書が好きだと思っているらしく毎回どこからか教室にない絵本を持参してくるのだ。

しかし、しあわせのおうじ…。懐かしいな。

「!…ふふっ。あおいちゃん、おうじさまがでてくるおはなしだよ!」

姉さんが嬉しそうに笑って絵本を私の顔の前に突き出すけど。
…それ、姉さんが好きなんだよね?





「むかぁーし、むかぁーし。あ、る、…こころに。しわあせな、お、お、じ、さまの、ぞうが…あー…あ、り、ま、し、た!」

姉さんは。
読書が苦手だ。なのになぜ持ってくる。子どもって分からない。
姉さんが一生懸命読んでる脇でふっと外を眺めてみる。もう肌寒くなっているのに元気にはしゃぐ声が2人しかいない教室にもかすかに響いてくる。

姉さんは、私と二人だけで本を読んでいて楽しいのだろうか?
ぶっちゃけ、私は楽しくない。だって読み間違えてるし。進むの遅いし。むしろ私、内容知ってる絵本ばっかりだし。








「ねぇ、ねえさん。」

「!あおいちゃん、なあに?」

あまり話しかけない私が声をかけたからか、姉さんは眼を丸くしてこっちを見る。


「ねぇさん、ここでえほんばっかりよんでたのしいの?」

「!」

「おそとで、みんなとあそぶのたのしいっていってたよね。」

「…あおいちゃん、このえほんつまんなかっったかー。じゃあ、べつのえほんもってきましょーね!」

えへへーと笑いながら絵本をたたむ姉さん。
うーん、おしいっ!と言うより伝わってない!


「…あのね、あおいちゃん。」

「! なあに?ねえさん。」

「これ、あげゆ。」

はい、と言って渡されたのはバンソーコーだった。

………ん?
私がどうしていいのか反応に困っていると、姉さんのポケットから繋がったままのバンソーコーがベロベロンと大量に出てきて20枚はあるだろうそれを私の手のひらに重ねてのせた。


えぇー。これをどうしろと?


「…たりゆ?」

むしろ何に?



「…うさはね。あおいのおねーちゃんだけど。あおいよりあたま、いくないから。あおいが、いっぱい…いっっぱいかんがえてること、しってゆけど。おてつだい、できない、から。」

「ねえ、さん?」

「あおい、いつも、いたいいたいっていってゆから…。」


なに…


「おめめからおみずはでてこないけど。」


なに…言ってんの?


「ぱぱにもままにもうさにも、ごめんなさいっておもってゆ。」


なに、言ってんの?


「あおいは、なにも、してないのに。ここにいちゃだめだっておもってゆ。」


ふざけんな


「っ!てきとーなこというなっ!!なにもしらないくせに!」

なに?

「わかったよーなこといわないで!」

なんなの?

「ねえさんの、そーゆーぎぜんてきなところが」













「だいっきらい!!!!」














あー。
幼稚園の花壇の隅っこで小さく体育座りをしながら反省会。
大嫌いって言ったのに姉さんは笑いながら言っていた。

(うさね、あおいのつばめになってあげゆ!)
(…は?)
(つばめはね。おおじさまがしあわせになるまで、ずーっと、ずーっといっしょにいるんだよ。)
(なに、いって)
(うさがあおいのしあわせをはこんであげゆ!)


あの子は根本的に幸せの王子の話が分かってない。つーか、え?何?なんでツバメ?
最終的に気まずくなった私が教室から出て行くってどうゆうこと?
あれ?私、大嫌いって言わなかったっけ?
どうしよう。姉さんの思考回路が謎すぎる。私のが先にショートするわ!
……つーか、そもそも。姉さん、3歳。わたし20歳(精神年齢)。正面から喧嘩するなんて大人げないわ…。
……………もどろ。







姉さんが強いと思ったのはそのすぐあとのこと。
(あ、あおいー!もどってきたー!ぐいっ)
((…あれー?私、酷いこと言わなかったっけ?))
(いーい!あおいのめつきはうまれつきわるいの!にらんでるわけじゃないの!!すずちゃんがふとってるのとかけーいちくんがあしみじかいのといっしょなの!)
((!?))
(((((えー!そーだったのかー!)))))
((えぇー。どんな素直さ…))
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