少女A
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例えば誰もが振り返るような絶世の美女だったのなら。
良く撓る革の鞭は、この身体を穿たなかったのだろうか?
例えばこの世界の誰よりも尊い存在だったのなら。
侮蔑の眼差しは羨望に変わるのだろうか?
例えば。
例えば。
例えば。
この世界になんて、来なかったら。
私はいつもの日常を謳歌できたのだろうか?
暗闇の中で思考の渦に呑まれながら延々とそんな事を考える少女、というには失礼にあたりそうな女性が居た。
ジメジメとした空気が窓もない部屋の中を漂い、形容しがたい異臭が鉄格子越しの部屋からしている。それに加えて、今夜はざわざわと人の声がかすかに聞こえていた。
誰かが死んだ。
本能や予感ではなく、“ココ”で積んできた“経験”から女性はそれを理解する。ここでは死が外の世界よりも遙かに身近にあったし、むしろ外の世界より死に対する憧れが強い。誰もが死にたがり、しかしいざ死ぬと決めてもそれは容易なことではなかった。看守のような雇われ傭兵が目を光らせる中をかいくぐらなくてはならない。今夜は“誰か”がそれに成功したらしい。
死ねたのか。
目を閉じてどこかホッとしている自分が居ることに僅かに驚く。けれどすぐにまた思考の渦に捕らわれていく。
果たして何が悪かったのか?
果たして誰が悪かったのか?
答えのでない問いをかけ、正解のない答えを探しながら気絶するように眠りに落ちる。最早、日課のようになったその眠りの先に新しい出会いがあるとは…
誰も、想像すらしなかっただろう。