小説(リボーン)短編
□限界
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「ねぇザンザス、人の気持ちに限界ってあると思う?」
「は?」
仕事が一段落つき報告書を渡しに来たザンザスは、綱吉の突然のこの台詞に間抜けな声を返した。
「・・・何だ突然」
「いや、ちょっと疑問に思ってさ。この前テレビで“限界に挑戦!!”みたいな事やってたから。まぁ、それはマラソンであって肉体的な話だったんだけど」
綱吉は報告書を受け取り、それを読み流しながら困ったように笑う。
また、一般の建物にまで被害が出てしまった。
暗殺部隊といいながら、ヴァリアーの仕事振りは結構派手である。
それは被害も派手であって、その事後処理は全てボスである綱吉に回ってくるのだ。
しかし仕事は確実である。
そのため、ヴァリアーはボンゴレにはなくてはならない存在だった。
そして、そのヴァリアーのボスであるザンザスは、綱吉にとってなくてはならない存在だった。
もちろんそれはザンザスにも言えた。
「で、限界が何だって?」
そう言いながら、ザンザスは椅子に座っている綱吉の背後に回り覆い被さるように抱きしめた。
「人の気持ち、感情。肉体にはやっぱり限界ってあると思うんだ。どんなに体力がある人だっていつかは疲れるし、死ぬ気の炎だってずっと出し続ける事なんて出来ないし」
「まぁ、そうだな」
「その点、感情とか目に見えないものだと限界ってないのかなって」
そう言って、綱吉は後ろから回された恋人の腕にそっと触れる。
そうしてやっと、今回も無事に帰ってきてくれた事に安堵する。
いくらこの男が強くても、仕事が簡単でも、もしかしたら・・・という事がありえなくはない。
そんな世界だ。
「おまえはどう思う」
「こっちが質問してたのに・・・まぁいいや」
綱吉はさらに回された腕をギュッと掴み、顔をすり寄せた。
「俺は・・・人の命に限界があるから、感情も制限されちゃうんじゃないかなって思う」
「何だそりゃ」
「俺の実体験から生まれた考え」
「・・・?」
訳がわからないという顔をして、ザンザスは無言で先を促す。
超直感といっても、相手の心の中までよめるわけではない。
「俺はさ、愛情って段々冷めていくものだと思ってたんだ、今まで。でも、不思議なんだ、全然冷めない。それどころか増していく一方なんだ」
誰に対してなのかなど、そんな野暮な事は聞かない。
「それは・・・限界があるのか?」
「うん。例えば相手の良い所を見つけた時、意外な一面を見た時、特にそんな時に愛しいなって思うんだ。それと、離れていて久しぶりに会えた時。とにかく、相手に会った時なんだ。だから―――――・・・・・・」
「わかった、もういい」
言いたい事はわかった。
人の命には限界がある。
こんな世界。
もし唯一の愛しい相手がこの世からいなくなってしまったら・・・・・・。
もう生きている姿は見られないのだ。
新たな発見もない。会えた感動もない。
そして、こうして触れる事も出来ない・・・・・・。
きっと、愛しさが募ったとしてもそれは次第に苦痛へと変わるだろう。
「で、ザンザスはどう思う?」
俯いて話していた綱吉はやっと顔を上げ、後ろを振り返ろうとした。
だがザンザスが寄りかかって顔を寄せてきたため、顔を動かす事はほとんど出来なかった。
「そうだな・・・俺は・・・わからないな」
「は?!」
自分は答えたのに、と綱吉は不満の声をあげる。
「いや、わからないんだ。確かにおまえに対しては愛情が冷めるどころか日々増していくばかりだ。・・・だが、おまえを失う事を想像出来ない。いや、そうなった時の自分を想像出来ない」
「ザンザス・・・」
「だが、そうだな・・・その時が来るまでは・・・限界はないと思うな」
その後に「俺に関しては、だがな」と付け加える。
「俺も・・・ザンザスと同じだよ」
馬鹿な事を聞いたと思う。
綱吉は反省した。
そうだ。
これからの事なんてわからない。
限界なんて決めるもんじゃない。
だが、それでも・・・そんな事を考えてしまう。
覚悟はしておいた方がいいと思ってしまう。
そして、自分もたぶん、ザンザスを失ったらどうなるかわからない。
「そーだよね、考えてもわからないんだから・・・」
綱吉は立ち上がり、真正面からザンザスに抱きつく。
違いすぎる体格。
きっともう彼なしでは生きていけない、そんな気がする。
「馬鹿な事・・・聞いたよ・・・」
「あぁ」
限界
それはきっと、己の心次第
確かに命には限りがあるけれど
心に限りはない
自分達は今、生きている
それでいい
「今日の発見」
「あ?」
「ザンザスってやっぱり・・・」
「やっぱり?」
「俺のこと、大好きだったんだね」
「・・・それは発見じゃなくて再確認だ」
「そうとも言う」
そしてもう1つ。
俺もやっぱりザンザスのことが大好きだったんだ。
失うのが怖い程。そうなった時が想像出来ない程。
「今更何言ってやがる」
「うん」
ずっと傍にいてなんて約束はさせられない
自分もそんな約束は出来ない
ただ、ずっと傍にいたい
いてほしい
こんな世界にいるからこそ
今を
大切に生きていこう
一緒に
→後書き