小説(リボーン)短編

□電話
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おまけ
 
 
 
ツナはここ最近ご機嫌だった。
理由はもちろん、ザンザス達の謹慎処分が解けたからだ。
 
早く会いたいが、別に会いに行くと言われた覚えもないし、会いたいと言った覚えもない。
もしかしたら、今までの電話は本当にただの暇つぶしだったのかもしれない。
 
しかしそれでも、何故か彼が会いに来てくれるような気がしていた。
自分の願望であってそう思い込んでいるだけなのかもしれないけれど・・・。
 
 
 
そして、その時はきた。
 
 
 
 
 
 
 
放課後。
 
 
教室には約半数近くの生徒がまだ残っていた。
 
いつものようにくだらない話に笑い合って時間をつぶしている。
後の半分は急いで帰ったり、部活や委員会に行ったりと、まぁ忙しい連中である。
 
 
 
 
と、窓際に座っていた女子が突然ガタッと音をたてて立ち上がった。
そして落ちんばかりに窓から乗り出し外を凝視している。
 
それに気づいた他の者達も何だ何だと窓際に集まった。
ツナも獄寺とまだ教室に残っていたので、なんとなくその騒ぎが気になってみんなの視線の先を目で追う。
ちなみに、山本は部活でいなかった。
 
 
 
みんなが見ていたのは、校庭の先の校門だった。
 
真正面になにやら黒っぽい車が1台止まっている。
それもなんだか高級車っぽかった。
校庭にいる者達も、興味深々でその様子を眺めている。
こういった平々凡々な場所では、少しの変化にもみんな騒ぎたてるのだ。
 
 
 
 
しばらくするとついに、車の中から人が出てきた。
遠くて見づらいが、なんとか見える。
 
最初に黒いスーツを着た坊主頭の男。
 
そして次に―――――
 
 
 
ツナはその場で固まった。
 
窓から思いっきり乗り出してよーく見る。
 
 
 
・・・・・・間違いない。
 
 
 
そう思った瞬間、体はもう動き出していた。
 
急いで下駄箱へ向かう。
騒ぎにあまり興味がない獄寺も、ツナがいきなり走り出したので慌てて後を追った。
 
 
 
 
靴に履き替えている時間などない。
上履きのまま校庭に飛び出す。
 
 
 
そこには、先程の2人が騒ぎの中こちらへ向かってくるのが見えた。
その騒ぎの中には、女子の黄色い悲鳴も混じっている。
 
 
 
 
そう、その2人とは・・・・・・
 
 
 
 
「テンメェ、何でここにいやがる・・・ザンザス!!」
 
獄寺が吼えた。
 
だがダイナマイトを構えた彼を、ザンザスの横にいた人物が間に割って止める。
 
 
「おやめ下さい。彼もボンゴレ、同士討ちになります。それにここは学校、乱闘は避けて下さい」
 
それから彼はツナに向き直り、一礼した。
 
「沢田綱吉様ですね、お初にお目にかかります。私、親方様の部下でターメリックと申します。今回、ザンザスの監視役に・・・・・・」
 
そこで顔を上げるが、ツナはターメリックの事など見てはいない・・・というか気づいていない様子だった。
 
 
 
 
「・・・・・・ザンザス・・・・・・本物・・・?」
 
 
すると相手は、以前のような小馬鹿にした笑いではなく、本当に微笑んだ。
 
 
「あぁ。なんなら触ってみるか?」
 
 
そう言ってザンザスは手を差し出した。
 
ツナは恐る恐るその手にそっと触れる。
 
 
その瞬間、ぐいっと腕を引かれ、気づいた時にはツナはザンザスに抱きしめられていた。
 
 
 
生徒達の驚きの声や黄色い悲鳴。
 
開いた口がふさがらない獄寺。
 
平静を装いながらも内心かなりビックリなターメリック。
 
 
 
そんな周囲も気にせず、騒ぎの原因である彼らは完全に2人の世界に入ってしまっていた。
 
 
 
 
「ザザザンザスッ」
 
「何だ」
 
「いや、あの・・・・・・お疲れ様」
 
「あぁ」
 
「それと、会いたかった」
 
「あぁ」
 
「来てくれてありがと」
 
 
「・・・綱吉」
 
 
抱きしめを一旦開放し、だがまだ腰に手を回したままのザンザスは真っ直ぐにツナを見て、言った。
 
 
「綱吉、今俺が何をしたいかわかるか」
 
 
「・・・こんな時だけ超直感が働いてるよ」 
 
 
ツナは頷き、苦笑してそう言った。
 
 
 
それからどちらからともなくお互いに顔を寄せ、唇を重ねた。
 
 
 
 
獄寺隼人、人生最大の大ショック。
もはやキレるを通り越して力が抜けてその場に座り込んでしまった。
 
そんな様子を呆れたように見つめるターメリック。
順応性に優れた男である。
 
 
 
そして主に女子生徒達の悲鳴にも似た奇声が響く。
 
 
 
校庭のど真ん中、しかも沢山の野次馬がいる中でそんな事をやらかした2人に、もはや周囲の声は届いてはいなかった。
 
 
 
生気が抜けたような獄寺の横で、ターメリックは親方様と呼ばれる自らの上司に報告していた。
 
「あー・・・・・・親方様?なんだか、全然問題がない・・・というか私はお邪魔なようなので、もうそちらに戻ります・・・。彼なら見張りは不要ですよ、保証します」
 
 
そして目の前でまだキスを続けている2人をこっそりと携帯で撮り、ひとり車へと戻っていった。
これを親方様に見せようか・・・・・・いや、きっと怒り狂うだろうな・・・しまっておこう。
 
親切にもそう思ったターメリックだが、後にその写真が見つかり、部下総出で家光がザンザスの元へ殴りこみに行くのを止めたのだった。
 
 
 
 
 
 
「なるほど、あれが例の電話の相手か」
 
「花、やっぱりそうなの?」
 
「一目瞭然よ。ったく、見せつけてくれちゃって・・・」
 
 
教室では、花が冷静にその光景を見守っていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
以前よりだいぶ丸くなった彼。
 
 
見た目はあまり変わっていないけれど、会えばわかる。
 
 
 
 
電話だけでは伝わらない事も出来ない事もあった。
 
 
それが今、出来ている。
 
 
 
 
 
 
 
キスが終わり、お互い見つめ合う。
 
 
 
 
 
会って、目を見て、どうしても伝えたい事があった。
 
 
 
 
 
 
 
 
「綱吉、愛してる」
 
 
 
 
 
「俺も愛してる、ザンザス・・・」
 
 
 
 
 
 
 
 
出会いが最悪だって関係ない。
 
 
 
殺しあったあの時だってもう過去の話。
 
 
 
 
今、ここで心から笑い合っている。
 
 
 
 
それが真実。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
1本の電話がくれた奇蹟。
 
 
 
 
その奇蹟はきっと、ずっと続いていく。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
→後書き
 
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