小説(リボーン)短編

□最高のプレゼント
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スクアーロは千種の姿を認めると、真っ直ぐに全速力で走ってきた。
 
「あの……」
 
そして、千種が何か言おうとしたのもお構いなしで……
 
「千種!!」
 
もう一度そう叫び、思いきり抱きしめた。
 
 
「っっ………………」
 
スクアーロの腕の中で目を丸くする千種。
何が起きたのか一瞬わからなかった。
 
スクアーロはなおも力強く抱きしめ続ける。
 
「おまえぇ…今まで何処に………っっ!!」
 
そこでガバッと身体が引き離された。
スクアーロが千種の肩を掴んで離したのだ。
今度はスクアーロが目を丸くしている。
それから今度は顔を真っ赤にしてすぐにそっぽを向いた。
 
 
「あ"――……その………」
 
どうやら先程の行動は突発的なものだったらしい。
つられて千種も赤くなりうつむく。
だがその時、地面に落ちている箱を見つけた。
 
「これ……」
 
「あっ…」
 
スクアーロは慌ててその箱を拾う。
 
「……何ですか?それ」
 
「これは……悪ぃ、本当はおまえにやるつもりだったんだが…」
 
溶けちまったし潰れちまったぁ、と言ってしぶしぶ箱を開けた。
そこには、可愛らしいショートケーキが。
だがやはり少し溶けていて形も崩れている。
 
「ケーキ……どうして…」
 
「どうしてって…今日はおまえの誕生日だろぉ」
 
「っ…!」
 
覚えていてくれたのだ。
自分は一目会えればいいと思っていたのに、こんなプレゼントまで用意してくれていた…。
 
「ホントはな、もう少し早くにだなぁ……ってかおまえ、今まで何処に行ってたんだぁ?ずいぶん捜したんだぞぉ」
 
「えと……」
 
ここ、と千種は答えた。
 
「ここ…?」
 
といえば、ここしかない。
 
「ここにいれば…もしかしたら会えるかもって……」
 
「っっ……」
 
つまりはアレか、お互いが会おうとしてお互いを捜して、結局すれ違っていた訳か……。
 
スクアーロは思わずその場にしゃがみ込む。
1日の疲れがどっとわいてきた。
 
「はぁ〜……どおりで黒曜にいないはずだぁ…」
 
「ずっと…捜してたんですか…?」
 
「あ"?あ"ぁ、まぁなぁ」
 
すると千種は、眼鏡をかけ直すような仕草をして顔を隠した。
……嬉しかったのだ。
結局こうして会えた訳なのだし。
 
 
だがスクアーロは困っていた。
プレゼントがなくなってしまったのだ、どうすればいいのか…。
 
「その…だなぁ……」
 
立ち上がるが、相手の顔が見れない。
それは千種も同じだったのだが。
 
「その…プレゼントはなくなっちまったが……誕生日、おめで、とう……」
 
「…どうも……」
 
少しだけ様子を伺おうと見ると、スクアーロの瞳には照れているのを精一杯隠そうとしている千種の姿が映った。
 
「……………」
 
何かを決意したような顔でスクアーロは千種の肩を再び掴む。
そして言った。
 
 
「抵抗したければしてくれて構わない」
 
「え……」
 
顔を近づけ、何か言いたくても言葉が見つからず迷っている風な千種の唇へ自分のそれを重ねた。
本当に、触れるだけ。
かすったと言っても語弊はないかもしれない。
それ程、浅く一瞬のものだった。
 
 
「…………………」
 
千種はしばらく放心状態になる。
そしてやっと、キスをされたのだと理解した。
抵抗など、どこにする暇があったのだろう。
まぁ、抵抗する気もなかったが。 
 
スクアーロはものすごく不安そうに「い、嫌だったかぁ?」と覗き込む。
 
嫌…ではなかった。
むしろ……
 
 
「……嬉しい…」
 
ポツリと、思った事がつい声に出てしまった。
スクアーロは驚くも、次の瞬間にはこれ以上ない程笑顔になっていた。
 
「あ"――…今のがプレゼント…でもいいかぁ?いやっ、ケーキは後でまたちゃんと買ってくるぜぇ」
 
もちろん、少し表情を柔らかくして頷く千種だった。
 
 
 
 
 
 
 
ヴァリアー邸に入り、スクアーロの部屋で買い直したケーキを2人で食べる。
 
「ち、千種ぁ」
 
とっさの時はあれだけ連呼しておきながら、やはり平常心に戻ると名前を呼ぶのも恥ずかしい。
 
「……はい」
 
「あのだなぁ…携帯とか持ってるなら、番号教えていけぇ」
 
「……あります」
 
そして今更ながら、やっと2人は連絡手段を得た。
今日みたいな事が今後ないように…。
 
 
「ありがとう……ス、スクアーロ…っ」
 
「っっ…………お、おぉ…」
 
初めて名前を呼ばれたスクアーロは驚きながらも、嬉しそうに返事をするのだった。
 
 
 
 
 
 
 
→後書き
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