小説(リボーン)短編

□ティータイム
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「あ”〜・・・誰かいねーのかぁ?」
 
人の気配のする辺りまで来て、そう問いかける。
すると横から人影が見えた。
 
 
「・・・・・・メンドイ。誰」
 
暗闇からダルそうに1人歩いてきた。
確か柿本・・・とかいった気がする。人物リストで見た。いつも帽子を被っていて、ヨーヨーを武器とするメガネをかけた奴。
 
「ヴァリアーだ。そっちの霧の守護者にやってもらいてぇ仕事がある」
 
用件だけ早く済ませてしまいたいスクアーロ。
だが千種はスクアーロに背を向けると、「こっち」と言ってさっさと歩き出した。
 
「う”お”お”い・・・話を・・・」
 
だが千種はどんどん暗闇の中を歩いていく。
このままでは見失う、そう思ったスクアーロはおとなしくついて行くことにした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「どうぞ」
 
そう言って目の前に出されたのは温かそうな紅茶。
千種について行き、先程この部屋についたスクアーロ。電気を付けられて気づいたが、どうやら普通の応接室のようだった。それほど広くはないが、こんなボロ建物の中にしては意外に綺麗だ。
そしてソファーに促され、紅茶を差し出されたのだ。
テーブルの上にポットを乗せたトレーを置き、千種もスクアーロの向かいに座る。
 
 
「何のつもりだぁ」
 
「接客」
 
「あの幻術使いはどうしたぁ」
 
「今はいない」
 
「依頼は引き受けんのかぁ?」
 
「クロームか骸様に聞いてみないとわからない」
 
「んじゃあ何だぁこれはぁ」
 
「これ・・・?」
 
「紅茶だ紅茶」
 
「どうぞ」
 
ズコッとこけそうになるスクアーロ。そんな事を聞きたい訳ではない。
だがどうやら相手は真面目らしい。自分の分の紅茶をチビチビと飲んで一息ついていた。
目の前に置かれた紅茶に目を向けると、何だかいい匂いが漂ってくる。
スクアーロはぎこちない動作で紅茶を一口飲んだ。
 
 
「・・・うめぇ」
 
いつもはレヴィかルッスーリアが紅茶やコーヒーを淹れているが、それよりも断然美味しかった。
あっという間に飲み干してしまう。
空のカップを置き、もう少し飲みたいと思っていたスクアーロの目の前で、新たに紅茶が注がれる。
びっくりして顔を上げると、千種が無言で紅茶を注いでいた。
 
「あ”・・・じゃあもらうぜぇ」
 
不思議な紅茶だった。2杯目でも全然飽きが来ない。
 
 
 
「・・・クローム」
 
「へ?!」
 
いきなり千種が喋ったので、驚いて紅茶を噴き出しそうになるスクアーロ。なんとか堪えた。
 
 
「クローム、今、沢田家に行ってる。たぶん夕方までには戻る・・・はず」
 
そう言うとまたチビチビと紅茶を飲み始めた。
 
「そぉかぁ・・・」
 
ちなみに時計の針は3時半。何とも微妙な時間である。
このまま待たせてもらうか、一旦出るか。
 
 
―――と、コトっと音がしたのでテーブルの上を見ると、新たにお茶菓子が置かれていた。
クッキーである。手作りっぽい。今作ったのか?・・・いや、そんな暇はなかった。だとしたら買ったのか・・・?
そんな風に考えていると、千種が皿を少しスクアーロ側に寄せて「どうぞ」と言った。
正直甘いものが苦手なスクアーロ。ヴァリアーの拠点地でもよくルッスーリアがお菓子を作るが、甘くて食べられたものじゃなかった。
だが出された手前、1つくらいは食べておくべきか。
そう思ってまたまたぎこちない手つきでクッキーを取るスクアーロ。
恐る恐る少しかじってみる。
 
「・・・・・・ん”?」
 
一瞬スクアーロの動きが止まったかと思うと、かじりかけの残りのクッキーを全て口に含んだ。
・・・うまい。
不思議そうに目の前の皿の中にあるクッキーを見つめる。
なぜだろうと考えて、2つ目を食べてわかった。
甘くないのだ。甘さが全くない訳ではないが、このくらいだったら丁度美味しく食べられる。
さらに言うと、この紅茶との相性が抜群なのだ。
料理に関しては疎いスクアーロだが、とにかく美味しいということはわかった。
市販のものだろうか。だが包装されていないのを見ると手作りというのも考えられる。
もし手作りなら、あの眼帯の女だろうか。・・・だが、どうも料理をする風には見えない。
だが他の男共も、料理をしそうな奴などいない。
そんな事を悶々と考えていたスクアーロを不思議そうに見る千種。
その視線に気づいたのか、スクアーロは再びクッキーを食べ始めた。
 
 
 
「どうですか」
 
「ん”あ”?!」
 
またまた突然千種が喋ったので、クッキーを落としかけるスクアーロ。
なんとか落とさずにすんだ。
 
「それ・・・」
 
「それ?」
 
相変わらず単語単語で喋る千種。
どうやらスクアーロの手にあるクッキーを指しているらしい。
 
「これがどうしたぁ?」
 
「・・・どう」
「は?」
 
「味」
 
「・・・っあ”ぁ”、味かぁ。いや、正直うまいぜぇ」
 
「・・・・・・そう、良かった」
 
初めて、千種が表情を変えた。
ほんの少しだが、スクアーロにはなんとなく喜んでいるように見えた。
 
 
「・・・ん”?まさか、これおまえが作ったのか?」
 
「・・・昨日作った」
 
「・・・・・・」
 
意外だ。この何に対してもやる気を持たなさそうな男が・・・。
 
「みんなは・・・甘くないと嫌だって言う。だからこれ、俺しか食べなかった」
 
「俺は甘いの苦手だからこれくらいが丁度いいけどなぁ」
 
「・・・・・・っ」
 
 
千種が何か言おうとした瞬間―――
 
 
 
 
「あっれ〜?お客?珍しいじゃ〜ん」
 
陽気な声と共に犬が帰ってきた。
 
「ってあれ?もしかしてヴァリアー?何の用だびょん?」
 
どうやらクロームはまだらしい。帰ってきたのは犬だけだった。
 
「クロームに仕事の依頼」
 
「あれ?向こうのチビは?」
 
おそらくマーモンの事だろう。
 
「・・・向こうのチビは?」
 
犬と同じ質問を今度は千種がスクアーロにしてきた。
 
「マーモンは別件の仕事が入ってる。今回頼もうとしてんのは急ぎの仕事でな。遠出してるマーモンは間に合わねぇんだぁ」
 
「ふ〜ん・・・まぁどうでもいいびょん」
 
だったら聞くなよ!!というツッコミをする者はこの場にはいなかった。
 
  
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